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ピアノ・レッスンのkirioのレビュー・感想・評価

ピアノ・レッスン(1993年製作の映画)
4.0
ピアノに準えた激しい愛憎劇の一幕
ほぼホラーだろう
とにかくまずは最高の映画作りに満点

とにかく力強いが、ある程度聞いていた部分もあるので、その過激さがそのまま伝わったかは、少し怪しい
一方で、とにかく象徴的な隠喩に包まれた作品でもある

ニュージーランドの熱帯雨林に住む一家にとって、ジャングルを隔てる家屋や土地は精神世界と同等
その領域を暴力と理性で守り、支配して来た歴史もある
しかし、人間の中には、理性では抑えきれない強く激しい高まりがある

夫は叔母のしきたりに従い、ピアノを取り上げ、妻をペットのように自身の領域に繋ぎ止めておくことに執着する
またマオリ族との軋轢の中で、彼らの土地を奪い、奪い介されることを危惧している

また言葉を捨てた彼女にとって、ピアノはそのもの言葉であり、自身を理性の領域に繋ぎ止めておくものでもある
新天地で、新たにピアノを奪われたことをきっかけに、彼女はより病的なまでにピアノに固執する
しかし、スチュワートとの出会いで、一時的にはピアノを取り戻した彼女だが、今度はその黒鍵言葉を一つ一つ、取り戻す代償に愛欲を差し出すことになる
やがて家屋の垣根を出た密林の中で、理性を凌ぐ感情に気づき始める

それを知った夫は、彼女の言葉であるピアノを完全に奪ってしまう
しかし、彼女は、ピアノや理性への執着を超えた激しい愛が芽生えていることに気づく。

島を出る頃には、彼女はピアノを捨て去り、
他方でそのピアノと共に、抑えきれない感情と共に自らを葬る衝動に駆られる
しかし、それでも最後に足掻き生きることを選んだのは彼女自身だった

その後も、ピアノとの関係をまた取り戻しつつ、それに触れる指はかけている
理性と感情の狭間で生きることを見つけたのか?

小さな子生意気な娘は、演劇の羽飾りを好み、その姿さながらの森のいたずらなニンフを演じる
ニンフは母の愛を独り占めしたがばかり、相引きの関係を父に密告してしまう
ジャングルを舞台に、まるで神話やお伽話のような世界が繰り広げられる


伏線というか、起こりうる出来事への引も印象的で
冒頭はまるで血潮のように覆われた指から始まる
サムニールの周りでは、ずっと青髭が妻の手を落とすエピソードをはじめ、斤が登場し続ける
冒頭では対話をこばむような過酷な自然、終焉では全てを受け入れたとような穏やかな海、その二つの対比も印象的

色々な要素を含め、「ブリキの太鼓」「妖精たちの森」「この世界の片隅に」あたりを思い出す部分もあった
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