イルーナ

ダンボのイルーナのレビュー・感想・評価

ダンボ(1941年製作の映画)
3.9
10月下旬、映画界を騒がせた「ティム・バートン、ディズニーに決別宣言」の一報。
それを聞いて衝撃を受けた方も多いと思います。もっとも、その経歴を知っている人なら「むしろ今までよく一緒に仕事してきたな」という感じでしょう。
彼の手がけた実写版の方はまだ未見なのですが、ディズニーへの愛憎が込められたヤバい一品であるとのこと。
ぜひその思いの丈を観てみたい所ですが、その前にオリジナル版を予習。
小さい頃に絵本で読んだ記憶はあるのですが、子供心に「可哀そうな話だなぁ」と思っていました。
そのため今までどうにも積極的に観る気が起きなかったのですが、この一件のおかげで観る気になったのだからわからないもの。

しかしこの話、うっすら覚えていたとはいえ全体的に陰湿なムードで驚く。
生まれた時は歓迎してたのに、自分たちと見た目が違うと分かるとあっさり手のひら返ししてきて、陰口シカトを繰り広げる先輩象たち。
母親のジャンボに対してもそうだし、芸の最中ですら互いに悪口言いたい放題だから尚更陰湿さが増す。ママ友間のいじめの構図だ……
しかも普段「象の誇りが~」とか言って色々見下してるくせに、ネズミのティモシー相手だと途端にビビり散らすのがまた。
ダンボは人間からもバカにされ、わが子を守ろうとしたジャンボは拘束され、親子は引き裂かれる。
つまり、母親が人質に取られてるから逃げるという選択肢もない。さらに、大きすぎる耳のせいで転んで失敗するから、ますます立場が悪くなる。
大きな才能を秘めながらも、どこにも居場所がなく、誰からも拒絶される、孤独な異形。
……うん、いかにもバートンが好きそうな話ですね。
一応ダンボにはティモシーやカラスたちという理解者がいるのですが、ジム・クロウの名前の由来を知ってウッ……となりました。
作中で描かれてはいませんが、彼らもまた、疎外されたマイノリティ的立場だったのでしょうか。

その一方で、動物や列車の動きはアニメ黎明期のカートゥーン表現で楽しいです。動くことの喜びや快感が詰まっているというか。
象の重みやブヨっとした質感を表現したシーンとかもリアルで印象的。
中でも「ピンクの象」のシーンは圧巻!ビール入りの水を誤飲して発症したなんて今の時代じゃ絶対にできない。
ネットでは、陰湿な周囲よりもむしろこっちの方がトラウマになったという話が多いので驚いたのですが、これは確かに夢に出そう。
変幻自在な動きに加えて、真っ黒な目。『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のゼロをちょっと思い出しました。
……というかバートンの作風、絶対このシーンの影響を強く受けてるって!
しかもこのシーンは4分半と、端役にしては妙に出番が長い上に、作風から完全に浮いている。
おまけにこの幻覚が飛行能力に覚醒するきっかけになったというから、何ともはや。
しかも「空飛ぶ象」の話なのに、実際に空を飛べるようになるのがもう終盤も終盤というタイミングなので、驚かれた方も多いかもしれません。

観始めたのはやや不純な動機からでしたが、当時のディズニーのオーパーツっぷりを知るいい機会になりました。
さて、バートン版はどうなっていることやら……
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