なまくらウォッチメン

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドのなまくらウォッチメンのレビュー・感想・評価

4.4
こういう作品に出会えるから映画を観るのがやめられないんですよね
とんでもないものに出会ってしまった感がすごい

20世紀初頭の西部アメリカが舞台。油脈を掘り当て石油王となったダニエル・プレインヴューの栄枯盛衰を描く

この話のメインの登場人物はわずか2人で、主人公のダニエルと福音派の預言者イーライのみです
今作の核はとにかくダニエルに尽きます
一言で言えば資本主義の擬人化の様な存在。地球の血液である石油、人的資源、金、流れ出る血…自分以外の全てを躊躇いなく搾り取る様はとても人間とは思えません

そして面白いところが彼を”欲望の塊”としては描いていないところ
普通の栄枯盛衰ものであれば、調子に乗り悦に浸るシーンがあるはずですが今作にはそういった描写は皆無
作中では彼が成功しても心が満たされるということは1度もありません
つまり観客からは意図が読めずはっきり言って人間的ではないキャラなのですが、終盤の息子とのやりとりで見せる涙で翻弄されます
家族を想う心はあるが他を喰らい尽くすことしかできない、という哀れながらも非常に魅力的なキャラクターに仕上がっていたと思います

ポール・ダノ演じるエセ預言者イーライもなかなかに良い役でした
洗礼のシーンとラストのボウリングのシーンはシュールながらも笑って良いのやら、というシニカルな笑いを誘う屈指の名場面だと思います

技術面も言わずもがな素晴らしいです
どれをとってもバシッと決まってかっこいい長回し。キューブリックを思わせる構図。恐怖感を煽るBGM。臨場感を醸し出し極限まで没入させる音響
全ての面で最上質で感嘆が漏れます

欲を言えばこれ尺を3時間にしてもっとどっぷり浸からせて欲しかったです
それこそ『ゴッド・ファーザー』のように