LilyElliot

スワロウテイルのLilyElliotのレビュー・感想・評価

スワロウテイル(1996年製作の映画)
4.5
元々非常に好きな邦画だったが、20歳以来久しぶりに鑑賞し、これだけ時間が経っても「素晴らしい」と思わせる大きな力が宿っていた。

興行収入はかなり良くなかったようだが、ひとえに、早すぎたんじゃないかと思う。岩井俊二や小林武史が、1996年の公開から数十年経ってから似たような世界観や雰囲気の作品が登場してきた、といった会話をラジオでしていたが、しばらくの時間、この独創的で唯一無二の世界観は類を見なかったように思う。

暴力、殺人、薬等の犯罪も、エロもグロも、すべて曝け出された作品であるにも関わらず、それらに目や思考が奪われたり汚されたりすることなく、むしろ清らかで切なく愛しさを覚える世界観が広がり、弱々しくもおそらく決して消えることのない光が差している。こんな風に”人の汚さ”を扱った作品をあまり知らない。

日本語、中国語が混ざったイエンタウン語ともいうような言葉をCHARAやその知人が話し合う序盤でまず一気にその世界に引き込まれ、そこでハマった鑑賞者は、そこからの2時間30分弱はあっという間だ。

エンディングの「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」が優しく、寂しく、本編が描いた人生の不可思議と虚無を、どうしようもなく、やるせなく包み込みながら幕が下ろされる。

古い作品なので、もちろん古いと感じる演出や画はある。だが、それっぽちのことで色褪せるような代物ではない。今なお岩井俊二の最高傑作だと思う。
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