Melko

チャンプのMelkoのネタバレレビュー・内容・結末

チャンプ(1979年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「アニーのこと好きだった?」
「もちろんさ!だからお前が生まれたんだ!」

ダメダメ親父ボクサーの、再起をかけた傷だらけの物語。まだ37なのに、対戦相手には老ぼれと呼ばれ…
馬鹿野郎!老ぼれナメんなあぁあぁあ!!

ああダメだ、どうしようもなく泣いた。
これは、父であるダメ親父ボクサービリーと、彼の人生のセコンド 息子のTJの話。
父親という生き物は不器用。生き方・生き様を子に伝えるには、背中で語るしかない。学がなく、金もなく、腕っ節の強さしか取り柄のないビリーが、愛する息子TJに見せられる、背中。

この親父ビリーがホントにダメな奴。お調子者で明るく陽気だが、酒とギャンブルがやめられない。息子が貯めてたなけなしのお小遣いにまで軍資金として手を出し、自分が息子にプレゼントしたばかりの馬を賭けてしまう。どこか刹那的に生きている節もある彼だが、生きる理由はきっと息子のTJ。キラキラした瞳で、既にボクシングから退いているビリーを「チャンプ」と呼び、ビリーがボクシングの舞台に返り咲いてくれることを願っている。
息子はいつだって、父親のカッコいい姿を見たいもの。健気に尽くすTJを裏切るかのように、落ちぶれまくるビリー。

そこに現れる元妻アニー。金持ちと結婚し、何不自由ない暮らし。TJとビリーを捨てて出てったのに、母親面。それはないだろと思った。あたし女だけど、こんな女キライ!綺麗事ばっか言ってんじゃねぇ!子どもが産まれてから8歳までという、一番大変な時期を面倒見ず、「おしめも変えず、鼻もかませたことないくせに、なにが母親だ?」とビリーは言うが、まさにその通り!どれだけビリーがクズだろうが、父親としてダメだろうが、それでもビリーは自分なりに仕事をしている。競馬場のみんなと、力を合わせてTJを育て上げてきた。
子は親の背中を見て育つ。TJが真っ直ぐ育った事が何よりの証拠ではないか。Bullshitとか言っちゃって、ちょっと口は悪いけどね、TJ。
再会したTJを抱きしめながら、首の匂いをかぐアニーに、寒気。海に連れて行ってキャッキャ遊んだり。サンドイッチ作ってあげたり。なに?それで親のつもり?子育てオナニーかよ、やめろ。

とことんダメなビリー…でも何故か自分を捨てたアニーのことは本気で愛していて、それはずっと変わらない。ビリーが他の女とイチャイチャしたりは一切なかったところが好感高い。アニーに戻ってきて欲しいと男泣きするところは、グッときてしまった。男の涙は苦手だが、こんなに真っ直ぐに泣かれると……

子を持つ親は強い。何よりも強い。自分の親を見てそう思ってきたことだけど、この映画を見て確信に変わった。この子のためなら死ねる。そう心に誓い挑んだカムバック戦。
僅かなプライド。どんなにボコボコにされ、こめかみから血を流しても、倒れても、丹下のオッサンのようなトレーナーに「もうやめよう」と止められても、決してタオルは受け取らない。これが、この子に見せてあげられる、俺の背中だから。
「俺は勝つ。絶対に勝つ。」取り憑かれたように敵に立ち向かう。
TJ役の子役は、眩しい笑顔と切ない泣き顔で、大人顔負けに圧巻の演技だったが、この最後の試合は、目の前で繰り広げられる壮絶な殴り合いに、ビビりまくって本当に泣きじゃくっているようだった。気持ちが痛いほどわかる。父親に、勝って欲しい。でも、これ以上ボロボロになる姿を見たくない。耐えられない。泣きながら、ハーフタイムにビリーに駆け寄るTJ。
本気で、「死んでも良い」と思って向かってくる人間には、どんなに強い相手でも、敵わない。

まさかのラスト。天使になったビリー。
忘れないでほしい。父親が全力で敵に挑んだ背中を。

アンジェリーナジョリーの父、ジョンヴォイトがビリーを演じていた。それにしても若い!!!ダメダメだけど、子を愛する気持ちが溢れ出ていた。
アニーのところに遊びに行ってたTJを迎えに行くビリー。お土産にぬいぐるみ用意してたのに、アニーのことを嬉々として話すTJを見て、こっそりぬいぐるみを捨てるところが切ない。ああ不器用。。それでも。
レビュー冒頭に書いたセリフは、心に響く。わたしも両親が別れているから、すごくわかる。この言葉が、子どもに及ぼす影響。力。心を暖かくすること。
わたしは父のことも母のことも好きでいて良いんだ、と思えることの大切さ。子どもにとっては当たり前に思えることだけど、親になったら…一度憎んだ相手を、子どものために赦せるだろうか。ビリーの8年の子育ての苦労を想うと、言葉も出ない。
もし自分がいなくなっても、子どもには幸せでいてほしいから。
「アニー、試合見に来てくれてたな。お前が呼んだのか。そうか…、良かったな。綺麗だったな…」
潔くこの言葉が出てくることの、人間力を見た。
Melko

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