ryosuke

青い青い海のryosukeのレビュー・感想・評価

青い青い海(1935年製作の映画)
3.7
 水平線を画面の上部や下部に配置する面白い構図が散見される。『帽子箱を持った少女』でも地平線が高いショットがあったし、バルネットの手癖なのかもしれない。ドヴジェンコ『大地』、ロンム『一年の九日』等、ソヴィエト映画ではこのような地平線が目立つ気がする。タイトル通り海は確かに美しいのだが、冒頭がマックスだったかもしれない。一瞬だけモンタージュされる、波間に太陽が見えるショットや海の表皮を艶めかしく捉えるスローモーション。
 しかしバルネット2本目だが、伝説的な映画作家扱いがどうもピンとこない。両作とも単純なメロドラマであることが好みでないのもあるのか。カットとカットの衝突としてのモンタージュというわけではない、普通に空間の連続性を保とうとするカット繋ぎがぎこちない瞬間もあったように思えたが、天下のバルネットだしこちらの気のせいなのだろう。
 『帽子箱』と本作を見て、バルネットは歌で感情表現をさせたい人なのかなと思った。トーキー作品とはいえまだまだ移行期で、シーンによっては発話のみが音声ありで環境音は全部消えたり、見つめ合う男女の描写だけ完全にサイレント映画になったりする。
 単なる情報伝達になりかねない切り返しに面白い点があったのは好印象。ヒロインがアリョーシャを見つめながらネックレスを引きちぎり、パーツがスローモーションでこぼれ落ちていくカットが印象深い。労働をサボって買ってきた宝飾品など不要というソヴィエト映画的価値観が強く提示されているのだろう。アリョーシャが相方に対し、お前がヒロインと結婚しろと告げる瞬間が揺れる船内での切り返しで描かれる。拗けた感情を画面の揺れで示す。
 高波が船室に大量の水を流し込むと、イリュージョンのようにヒロインが登場する。引き続いて、彼女は水に包まれた瞬間に船上から消えている。まるで水の精霊のような奇妙な描写は技術的困難等が理由なのかもしれないが味がある。やはり彼女は、波とともにこともなげに帰ってきて、自分の葬式に姿を現してしまう。どうも人間離れしたヒロインだ。実際、途中まではほぼ内面がある人間として描かれていないように思え、男二人は彼女の気持ちを一切確認せずに盛り上がっているのだが、案の定ラストに婚約者の存在が示される。水とともに生成消滅する女の非現実的な描写は、願望で歪んだ男たちの視線の反映だったのかもしれない。
ryosuke

ryosuke