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推手のRのレビュー・感想・評価

推手(1991年製作の映画)
4.6
おもしろい! ジャケットのおもんなさそうさに騙されてはいけない! 僕の大好きなアンリー監督の長編デビュー作らしいですが、この時からすでに後に名声を得るのが目に見えていた、と後出しで言っても全然納得していただけるすばらしい演出力。ユーモアとシリアスのバランス、リアルとアンリアルのバランス、繊細な感情の描き方とザックリしたハプニング、何もかもが手練れの技としか言いようがない。が、同時にフレッシュさもある。こういう映画が存在すること自体にワクワクする。冒頭、典型的な平均アメリカンの家のリビングで太極拳をしてる中国のお爺さん、奥の部屋では白人の女がパソコンに向かって小説を書こうとしている。爺さんは太極拳のあと座禅を組んだり、書を嗜んだり、一方で女は彼に気をとられて仕事が捗らずイライラしてるようだ。食事に爺さんは中華料理を載せたどんぶり飯を箸で掻き込み、女はサラダにクラッカーを齧っている。最初数分ほとんど言葉のないショットの連なりで、テーマとエモーションのぶつかりを鮮やかに見せる。女には中国人の夫がいて、息子と3人で暮らしてる。そこに、約一ヶ月前、突然夫の父親が姿を現したので、家においてやるしかなくなったのだ。プライベートな空間兼仕事場に、英語を喋れない見知らぬ年寄りが入ってきて、奥さんにとっては邪魔でしょうがない。週末、息子を中国語の塾に預け、爺さんは太極拳を近所の人に教え、夫はスポーツを楽しみ、と呑気に生活してる間に、ストレスたまりまくった奥さんは、遂に胃の出血で入院してしまう…さて、爺さんをどうしたものか…困り果て。というストーリー。前面には文化的な衝突があって、若者と年寄りがなるべく干渉し合わず暮らすアメリカと、みんな一緒に助け合いながら暮らす中国とのギャップが問題になり、国際結婚生活の問題がメインなのかと思いきや、後半、急速に進んでは過ぎ去ってゆく時代に取り残される老人たちは一体どのように生きればいいのか、という、特に高齢化が今後ヤバさを増しに増す日本では確実に誰しもが直面する問題を浮かび上がらせる、とても意欲的な映画になっている。そう考えるとアンリーの目の付けどころってすごいな! ゲイテーマの映画にしてもそうやし、めっちゃ時代の先を見てるやん! すげー! ストーリー自体も興味深く、テンポもいいし、ユーモアがいい塩梅に散りばめられてるので重くもならないし、けど、老いたる人生がどんどんしぼんでいく様子はヘビーで厳しい。けど、よく考えたらこの映画に出てくる老人ふたりはまぁいろんな面で恵まれてる。現実の老人たちはこんなにいい状況にないし、今後ますます老後の生活はキツいものになっていく。って考えると、本作のギリギリオーライな結論は、現代人にとっては甘すぎる絵空事に見えてしまうかもしれない。まさかこんなに状態が悪化してしまうとは当時の人には想像できなかったのかもしれない。しかし、老いと死が人生最大の苦しみであることは、キリストが生まれる何万年も前から分かりきっていたことだ。もっと根本的に人生観を改革していかなければどうにもならないと思うんだが、現代人の多くは頑迷に真理を直視しようとしない傾向にあるので、めちゃめちゃ難しい問題だなと。てわけで、結局いちばん身近な人たちと地道にやってくしかないのかな、と、話は逸れてしまったが、とにかく、さすがアンリーな作品になってます。あと、太極拳て調べてみると肉体的にも精神的にも大変健康にいいらしい。ほんま人体って不思議。なぜあんなゆっくり踊ってるようにしか見えないものが多大な効果をもたらすのか、しかも気の流れとか、なぜ昔の中国人にそんなことが分かったのか。人間の直感知に科学は到底かないっこないってことがこれひとつとってもよく分かる。人間ってすげぇ。太極拳ておっさんしかやならないイメージやけどすごく興味湧きました。一回レッスンみたいなん受けに行ってみよーかなぁー。
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