多民族、多宗教国家マレーシアで描く青春群像劇。
なんとも言えない優しさに包まれて、涙腺が弛んだ。観賞後にこんなに余韻に浸ったのは久しぶり…名作です。
高校の音楽コンクールに臨む高校生たちの物語だが、華やかな舞台上の輝きを描くのではなく、舞台裏の人間模様がメインとなる。成績トップの優等生には父のプレッシャーがあり、彼の成績を抜いた転入生には母の看病がある。それぞれに悲しみや葛藤があるが、その家庭環境は学校では見えない。
ピアノのムルーと送迎役のマヘシュの家庭は対照的で、彼女の親はよく笑い、彼の親は悲しみに暮れる。叔父の結婚式の隣りで葬式があったように、喜びと悲しみはいつも隣り合わせだ。そして、表裏一体の禍福によって、人の心は月のように満ち欠けする。
そばにいるだけで、同じ空間を共有するだけで、言葉、民族、宗教など、あらゆる壁は見えなくなる。マレー系ムスリムとインド系ヒンドゥ教徒だが男と女。互いが照らされる月であり、互いを照らす太陽のような存在で、公園のベンチで見た赤ちゃんたちは、2人を見守る天使のようだった。
すぐ近くにいるのに想いを届けられず、行き場を失った歌が切ない。そして、母への想いを綴った歌がどこまでも優しくて、目頭が熱くなった。