三船敏郎が黒澤映画に初出演した作品。
助演のはずが完全に主役になつている。
結核になつたヤクザと町医者の物語。
ヤクザの生き方というのは汚い水たまりのように醜くて酷いものと伝えるつもりが、三船演じる松永があまりにも際立ちすぎて、カッコよく見えてしまう。
病気でやつれた顔で飲み歩き、踊る。同棲していた女が松永を見限り、親分に乗り換えるために部屋を出ていくところを睨む目、シマを奪われたことを気がついた時の惨めな表情、ペンキにまみれながら親分と格闘するシーンなど印象的な演技がたくさん。松永が死にゆくシーンは太陽にほえろでのジーパン刑事の殉職シーンを思い出した。
町医者の真田を演じる志村喬は年寄りと言いながら、後ろの方から黒澤作品を見てきた私には若くて溌剌として見える。
キャバレーで「うあお、ワオワオ、私は南海の女豹だ」と歌う歌手がタダモノではないと思って確かめたら、笠置シヅ子、思わず今始まったばかりのNHKの連ドラを見始めた。
真田の病院前の水たまりはわざわざ映画のために作ったもの、また、駅前マーケットも同様。
また、ギターの曲、真田が鼻歌で歌う「あなたと二人で来た丘は港がが見える丘...」がボレロのように場面場面で畳み掛けてくる。電車も物語のリズムをとるドラムのように何度も出てくる。昭和22年によくこんな映画が作れたもの。
また、いつもセリフの含蓄が深い。
「日本人というやつは下らねえものに命を捨てたがっていけねえ。」
「人間に一番必要な薬は理性。」
結核で真田のところに通つた女子高生が全てを中和する清涼剤。