男と女が川沿いを歩いている
橋を渡った向こう側は、洲崎パラダイスと呼ばれる娼館街だ
女は、今夜の宿賃もないのだから、向こう側で働くしかないと男に言う 男は不甲斐なく女の後をついていく
二人はギリギリ橋のこちら側で止まって、川沿いの小汚い食堂で女は職を得て、二階の小部屋に転がり込む
男はやもめ暮らしの女将の紹介で近所の蕎麦屋の出前に雇われる
始まりはどう見ても堕ちていく二人の暗く陰惨な話なのだが、語り口はこの後すぐに転換される
それも絶妙なスムーズさで違和感なく切り返される
川島雄三の映画のヒロインは堪え忍ぶ女ではない
突き抜けた生命力が溢れてみていて気持ちよい
新珠三千代の粋なこと、美しいこと、生きる力の強いこと
轟夕起子の、垢抜けないおばさんが、一瞬女を取り戻した時のときめきと、その後の消失の大きな落差、その演技の見事さ
芦川いづみの初々しいかわゆさとまっすぐな聡明さ
魅力的な女性3人が不甲斐ない男を振り回しそして支える
川島雄三の映画が何故“重喜劇〟と称されるのか、その理由をこの映画は分かりやすく伝えてくれる
それはその後、今村昌平に引き継がれ日本映画に大きな流れを作る
それにしても上手い
ウェルメイドと言う言葉はこの人の為にあるのかと思うほど軽妙洒脱な語り口
45歳での夭逝が惜しまれる