Jeffrey

怪奇な恋の物語のJeffreyのレビュー・感想・評価

怪奇な恋の物語(1969年製作の映画)
4.0
‪「怪奇な恋の物語」

冒頭、猟奇的な悪夢に悩まされる画家のレオナルド。恋人、都会の喧騒、静かな田舎、郊外の古い屋敷、謎の足音、吐息、アトリエ、館、美人令嬢、亡霊。今、死者の吐息が怪しい悪夢へと誘う…本作は私生活でも恋愛関係にあった国際派スターのフランコ・ネロとヴァネッサ・レッドグレイヴが共演したサスペンスで、監督はエリオ・ペトリで、第19回ベルリン国際映画祭に出品され、銀熊賞を受賞した正に独創性豊かな隠れた名作と言える。この度初円盤化され、鑑賞したが素晴らしかった。こんな傑作が今の今まで円盤化されていなかったことに憤りすら感じてしまう。これは是非とも見て欲しいサイコロジカルロマンスの傑作だ。

まず、原作であるジョージ・オリバー・オニオンズの1911年に出版した幽霊小説"美人の手招き"を元にしているところが良い。18世紀の幽霊に苦しめられる作家が外界との接触を断ち切って、苦しむ題材だなんて最高ではないか。脚本が「鉄道員」や「夕日のガンマン」それからモンスターパニックの「オルカ」を手がけたルチアーノ・ウィンチェッチーニだったのには驚かされた。どうりで楽しいわけだ。

そして本作の主演女優ヴァネッサ・レッドグレイヴは一昨年に復刻シネマライブラリーから発売された「裸足のイサドラ」で、彼女の大ファンになった個人としては非常に嬉しい1本である。彼女は確か「ジュリア」と言う作品で、助演女優賞を受賞したオスカー女優だ。で、音楽は誰もが知っているモリコーネが担当し、撮影はルイジ・クヴェイレルと最強なスタッフが勢揃い。これだけでテンション上がる私である。

本作は冒頭から不思議な絵画の描写が入り乱れる。続いて男がパンイチで椅子に縛られている。そこにコート姿の女性、男の胸にナイフを突き立てる。女が1人で電子機器関連のこと話す。続いてカメラを押し、様々な写真の描写、街に出る男、女といちゃつき、派手な格好して花束を持つ女性、へんてこな愉快な音楽と共に都会の喧騒が写し出される。続いて小動物の鳴き声と共に森に足を運ぶ男、木の実の描写、建物、雑誌、不意に少し前の出来事に戻る。

この映画冒頭からすごく実験的で前衛的である。まるで吉田喜重の作品を見ているかのようだ。色彩はロブクリエもしくはゴダールだ。とりわけロケ地が素晴らしく、コルデッリーナロンバルディ荘とヴェネチア式邸宅のガヴッアリルグリの屋敷が歴史ある趣で良かった。女が男を手玉に取り、刺殺す。だが、それは男の夢である。横移動するカメラ、風変わりなアーティスティックなオブジェ、ホワイトクロスにパステルカラーのファッション、不気味な音楽、血を彷仏させる赤い絵の具での絵描き、怪奇現象のように天井が崩れ落ちたり、棚が倒れたりまるで家が狙われているかのような演出も凄いし、男が拘束されるたびに夢から目覚め、その場面で男女のベットシーンに移り変わるのも好き。

記者がアトリエを撮影した瞬間に暴力に豹変する男の下りは中々見応えがあるし、絵画を何者かによって破壊された男が犯人探しするときに若い男女のカップルに対して行う変な儀式的な場面も不可解で魅力的。交霊の集いで、テーブルに手をついて数人の大人が囲んでヴァンダと言う霊と交信する場面は最早ホラー映画で、そっから過激な暴力にとらわれる男の現実なのか、それとも幻想なのか…その狭い隙間を潜って映されるカフカ的状況の世界はインパクトがある。

男女を縛って赤いスプレーでアート風にした時、分身を覗き込んだり、銃撃したり、木を赤くペンキで染め上げたりと…取り敢えず凄い。

さて、物語はミラノの前衛画家レオナルドが恋人と都会から離れて、郊外の古い屋敷にアトリエを構えて、そこで生活するのだが、この場所はイギリス戦闘機の銃弾に倒れた令嬢の忌まわしい霊が存在するところであった。彼は彼女の幻影に取り憑かれ、徐々におかしくなっていく…と簡単に説明するとこんな感じで、一部ではイタリアのジャッロの1本に数えられているらしい。

ところで、劇中でフランコネロを演じるレオナルドが抽象画を描く、その数々の画はアメリカのポップアート画家のジム・ダインのものらしく、これまた豪華である。

余談だが、本作はイタリア怪奇映画の巨匠とされるマリオ・バーヴァが監督する予定もあったとのこと。もし彼がこの作品を監督してしたらどうなっていたかはファンとしては気になるところだが、考える事はやめよ…。

更に主演は元々は「イージーライダー」で頭角を現したジャック・ニコルソンを監督は支持していたようだが、予定が合わずに断念したとの事。

‪ペトリ作品だと、カンヌ最高賞を受賞した「労働者階級は天国に入る」は早く円盤化して欲しいもんだ。それと「殺人捜査」もVHSからソフト化してくれ〜。とりま本作はお勧めだ…。‬
Jeffrey

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