Cisaraghi

ひとり狼のCisaraghiのレビュー・感想・評価

ひとり狼(1968年製作の映画)
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雷蔵マラソンも次第に難所にさしかかりつつあり、雷蔵ファンにならなければ絶対観ることのなかった苦手ジャンルの映画が行く手を阻む。股旅物もそのひとつ。股旅物とは、要するに流れ者ヤクザ時代劇である。

この映画はハードボイルドな股旅物というか、渡世人もの。伝説として語られるカリスマやくざが雷蔵さんの役どころ。雷蔵この時35歳、役柄上濃いめのメイクも荒んでいて、もっと若い頃の雷蔵に比べれば老いの影を感じ、見る方の気持ちも重くなる。ドスの効いた声の出し方などとても35歳とは思えない。どこまでもハードボイルドなのは様になってるとしても、あのキメキメ過ぎる決めゼリフはいささか過剰で苦笑してしまった。

小川真由美が登場してからは少し趣が変わって、『嵐が丘』みたい、と思ったのは私だけ?小川真由美さん、雷蔵映画の共演女優としては異質というか、市川雷蔵の相手役という以上の存在感があって、現代的な大人っぽさやフランスの女優さんみたいな自立した雰囲気が時代劇っぽくなくていい。

ヤクザ映画が地上波TVで放映できなくなり、ヤクザそのものをTVで取り上げることさえ難しくなった今の感覚からすると、このようにヤクザをカッコいいヒーローとして描くこと自体に違和感がある。今の若い人たちは、清水の次郎長や国定忠治の名前すら知らないのではないか。大映が次第に傾きつつある中、東映ヤクザ映画全盛だった時代の時流に乗ろうと作られた若親分シリーズも、今思うと雷蔵さんはこのシリーズ本当にやりたかったのだろうか?ともの悲しいものがある。一番見たくない雷蔵さんだ。

ヤクザではないが、眠狂四郎も今の感覚や倫理観からするといろいろとアウトな部分があり、時代を超えて生き続けるヒーロー像にはなりにくいと思うので、やはり雷蔵さんは濡れ髪シリーズとか文芸ものとか軽めの時代劇などがもっと広く知られて欲しいな、などと俄ファンが生意気勝手を言って叱られそう。でも、考えたら濡れ髪シリーズも『濡れ髪剣法』以外は全部渡世人の役だった!(『濡れ髪剣法』で殿が世話になる口入れ屋は、ヤクザとまではいかないのではなかろうか。)

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