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甘い生活のcyphのレビュー・感想・評価

甘い生活(1959年製作の映画)
4.8
前回はフェリーニ初見で背景知識ゼロで観たのでふうん??、絵がきれい くらいの感想だったけどある程度フェリーニ見てから戻ってきたら(あと劇場で見たら)よすぎて全身びしゃびしゃになってしまった あとあらすじ(?そも筋なんてないけど)が頭に入ってると これは一体いつ終わるんだ、なんのシークエンスを見てるんだ の不安なくリラックスして観れてきもちよかった!DVD買って何度も見たい

断片的な作品だからこのシーンすき、このシーンすき、の連続にしかならないけどもし全体の話をするとしたら退廃的なムードや反理性主義みたいなものが作品のテーマとなってるおかげで絵はゴージャスだけど根はヤンキー、みたいなシーンが多くて完全私得最高 ということなのかなと思う シルヴィアとのお忍びデートなんかまさしくそうだけど、やってることも考えてることも田舎のヤンキーと変わらないのに美しく神聖なものに映る瞬間があるのってまさしく映画観てる甲斐あるな〜となる…

すきなシーンたち⤵︎
アヌーク・エメことマッデレーナとの恋愛、まずアヌーク・エメの登場シーンだけで持ってかれちゃう サングラスでその大きな瞳を隠していても世界一スペシャルな女ってわかっちゃって最高 浸水してる娼婦の家に招かれるシーンの奇妙な生活感と神聖さのバランスなんかも最高にグッド 再登場後のささやきの部屋のくだりもいいな 強いて言うならいちばん運命っぽい存在のはずだったのに結局だれも大切にできないで陳腐な愛の言葉を響かせながらだれもかも粗末にしてきたツケを無様に支払う哀れで惨めなマルチェロ うっとりしてしまう

アメリカからやってきたゴージャスで空っぽな女優シルヴィアのくだりもクライマックス的な贅沢な絵が続くわりに前後の進行となにひとつも噛み合わない空虚さがなにより最高 音楽にハイになってるシルヴィアと手を取りながら詩で口説いてたのにシルヴィアと旧知らしい陽気なお調子者が登場した途端一瞬で持ってかれちゃうかんじもほんとうにいい こちらに目もくれない美しいものが騒々しく通り過ぎていく虚しさ 彼女のドレスの裾のひらめきに全員がメロメロになってしまうやつ

聖母を見た子供たちに報道陣や信者たち、野次馬が群がって阿鼻叫喚になるシーンもなんてフェリーニ的なんだろ、となってよかった 照明はショートして集められた病人はずぶ濡れになり奇跡の木はなぎ倒されてもなお人々は奇跡を諦めることができない このシーン以外のパパラッチたちも基本的にノイズとして必要十分でうざくてよかった 世界がうるさい映画は最高

突然田舎からやってきた父と無理やり巻きこんだ友人パパラッツォとフランス娘との気まずいテーブルも最高最高だった 気まずい食卓を観たくて映画観てるようなものなので終始たまらない 特にここにパパラッツォがいることの素晴らしさ とにかく終始自我や役割を持たない彼の存在がドラマや緊張感を退けただなんともならないぽかんとムードを助長させてていいぞ!となる なんか急に具合悪くなってテンション下がって帰っていっちゃう父に今更すがっちゃうかんじも生々しくてよかった こうしてお前は誰のことも見逃して生きていくんだよ、の象徴

終盤のパーティー地獄もどれも悪夢的でよかった 枕の羽毛をまぶしていくシーンとかフェリーニの魔法だな〜となる 森を抜けて海に向かっていくシークエンスも◎ 夢分析的な意味づけに興奮がないので少女に対してはふうんおっけ くらいにしか思えないのだけど みんな微睡んでてうんざりしていて疲れてて、いい終わり方だなと思う

なにか不満というか物足りなさがあるとしたらエンマがただの馬鹿な女だったことだな、まあ賢く懸命に生きてる人間ひとりも出てこない映画だから仕方ないことだけど 車降りる降りないなんか完全に地方のヤンキーカップルの喧嘩で笑う しかしこれの3年後『8 1/2』でマストロヤンニの好色さを詰る女を気高く賢く美しく諦めを知ってるアヌーク・エメに昇華できたことを思えばいい踏み台なのかもしれない



2017/12/23 缶詰にされてたホテルで右も左もわからずぼんやり観たときのメモ⤵︎ たぶんシルヴィアのシーン以外目を開けたまま寝てたんだな
「まず花束?ピザ?」「ピザだ!ピザを渡すんだ」大聖堂のせまいらせん階段 鳴り響く鐘 靴を脱ぎ捨てて裸足で黒いドレス翻しておどっちゃうロックンロール 白い息と遠吠え 夜の街で牛乳を探して走るマルチェロ 街の中心の噴水で水と踊るシルヴィア 群がるパパラッツォたち
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