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ドカベンのshishiraizouのレビュー・感想・評価

ドカベン(1977年製作の映画)
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面白いこと、楽しませることに特化した、恐るべき映画。下らないことを狙っても、どうしてもセンスの誇示が滲み出てしまう(マイク・マイヤーズ、タランティーノ・・)が、ここには自意識というものが、演技にも、演出にも、カメラワークのダサいズームにも、見事になくて、表面、あるがままの滑稽さしかない。

岩鬼の表情!
表情筋が純粋にチャカチャカ作動する可笑しみ。「ぬな?」の見事な発声。くわえた葉っぱから花が咲くアクションのハイクオリティの壮絶な無駄さは『ザ・サムライ』の「にゅみん」にも匹敵する。演じる自意識がないだけじゃない、キャラなりきるのでもない。仕草/アクション/発声の累積が、岩鬼そのものとなる。純粋形態の岩鬼が、山田家のサンマをマズいマズいと言って喰らい、しゃーないから泊まっていってやるというピュアな切なさ。

話は原作と同じく、山田と岩鬼の弁当がらみでの出会いから、柔道部の話までが大部分。
演技の表現方法が4ビットくらいしかない山田役の子。それが朴訥としたなかにある底知れなさとマッチ(死語)する。
永島敏行の化粧したみたいな扁平な表情。殿馬の川谷拓三は川谷拓三でしかないのに、殿馬のまんまでもあるのは、不毛なほど忠実にトレースされた殿馬の奇怪なアクションの数々ゆえでしょうか。
赤くなる岩鬼の顔面、打撲で灰色になる賀間の腕。カラー映画の原初的、そのまんまな面白さがあります。
最後は水島先生による貴重なノック映像がたっぷり。満腹

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終盤の混乱した展開と、野球へ移行したあたりでの終わりかたに、続編ありきだったかんじに見えますが、果たしてそうなのか。
映画だと高校一年の夏の予選が終わってしまって、甲子園に行くにしても来年になりそうだし、大人気キャラの里中の入れどころがない。神奈川の猛者たちとの野球での1年時での対決も消えてしまう。この映画版で中学を高校に変更した以外は原作にけっこう忠実に描いてきたものが、続編があると結局原作の大幅改変が必要になってしまう。
当時の状況を見てみると、テレビアニメ版は放送中、春と夏に東映まんがまつりでアニメのブローアップ版上映。その狭間のゴールデンウィークに、この実写版『ドカベン』は公開されています。

○76年10月テレビアニメ版『ドカベン』放送開始
○77年春休み東映まんがまつり内(アニメ『ドカベン』)
☆77年GW 実写『ドカベン』
○77年夏休み東映まんがまつり内(アニメ『ドカベン 甲子園への道』)

春の『ドカベン』は中学編で柔道部→野球部に移行する15話「おーよ!ピッチャーで四番ヅラか?」のブローアップ版、夏の『甲子園への道』は地区予選決勝、対東海高校戦クライマックスの37話「なるか!里中パーフェクト」の同じくブローアップ版。

天尾完次からGW 用の『ドカベン』監督をとの依頼が鈴木にあったのが、前年76年12月だったという。乗り気でなかった鈴木だが、読んでみた原作が面白くて夢中になる。やっぱり話を受けると連絡すると、掛札の脚本は半分ほど進行していた。宣伝部配布文には〈単行本も26巻1000万部の売れ行き、また、現在フジTV で放映され視聴率20%を越える〉とある
はじまったアニメ版が高視聴率で、東映まんがまつりに春、夏に投入することも早々と検討されていたのではないか。そこでのエピソードが春→野球をはじめる/夏→甲子園出場決定あたりなので、その間のGWにやる実写版のケツはボンヤリとでも良いから「野球はじめて甲子園を目指すぞ」前後と決められていたのではないか。テレビアニメや東映まんがまつりとの連動。実写版公開時のテレビでの直近エピソードは高校1年時、30話「初登板! 小さな巨人里中くん」だった
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