円柱野郎

陸軍中野学校 開戦前夜の円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

陸軍中野学校 開戦前夜(1968年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

日米開戦の迫る昭和16年、香港で機密情報を入手した椎名だったが、そこから御前会議の内容が敵国に漏れていることが判明。
情報の流出経路を探るべく最優先の調査を開始する。

プログラムピクチャー化されたシリーズ5作目。
3年間に5作品、4~5作目以外は毎回監督も変わっているものの、シリーズを通して一貫した作風を維持しているのは感心する。
まあ大掛かりなアクションはないし、地に足着いたスパイ・ドラマなのでそういうスピード感で作れるのだろうけど。
最終作である本作は、難航する日米交渉の裏で行われる諜報員たちの駆け引きが描かれるけれど、防諜成功=真珠湾攻撃成功のカギというなかなかに重い任務でもある。
冒頭の諜報作戦はその事態を知る切っ掛けのもので、映画的な部分では完全に掴みなわけだけど、地味でも地に足着いた椎名のスパイっぷりが良い感じ。
本作も90分弱の尺しかないけど、奇をてらわずにオーソドックスな構造にしているから話にも入り込みやすいかな。

しかし冒頭の作戦後にいきなり敵側に掴まってしまうあたり、その時は「椎名も意外にドジだなあ」と思ってしまったw
(ある種、スパイものとしてはお約束だが。)
ただそれは、自白剤でも情報を吐き出さない強靭な意思を見せることで「さすが中野学校で鍛えられた男」と観客に思わせるための仕掛け。
後半での敵側に掴まった細川俊之演じる海軍情報将校の自白シーンがその対比として効果的だよね。
ここで、「ああやはり椎名はすごかったんだ」となる。

敵側のP機関も椎名を拘束したり、バレそうになった協力者を消したり、情報将校を誘拐した上に機密情報を入手したりと、どちらかというと日本側の先手を打って行動するあたりの好敵手っぷりが悪くない。
キーポイントと思しき大原邸に、秋子をはじめP機関の関係者が周辺に居すぎる感じがするのはご都合主義的だと思わなくもないけど、まあ映画のテンポのためには細事だろう。

ラスト、からくも敵側への情報漏えいを阻止した椎名たちだったが、それすなわち日米開戦の後押しでもあるところがこのシリーズらしいちょっと複雑な心持にさせる部分か。
歴史的にはこの後に日本が泥沼にハマっていくわけだしね。
だけどそういった歴史的事実はともかくとして、その裏で活躍したスパイ映画というエンターテイメントとしては(地味だけど)手堅く面白いシリーズだったと思う。
円柱野郎

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