まりぃくりすてぃ

東京物語のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
5.0
◆数年ぶりに観た(初の劇場鑑賞!)◆

冒頭からもう涙止まらず。名作に再びめぐりあえた幸福で。
団扇(うちわ)の表側に高峰秀子さんが“特別出演”してるのを見つけ、ホッペゆるゆる。
紀子(原節子さん)の性格のよさに、そして老夫婦(笠智衆さん&東山千栄子さん)のすばらしい重みに、追加落涙、また追加……。
ラストもうだめ。
ポップ系・準ポップ系・こっくり系に分けるならば、こっくり系部門の世界最高映画がこれだとやっぱり思う!!!



◆以下、かつてDVDで観た時の感想(当時20代だった私の)◆

序盤30分ぐらいまで退屈かも感。切り返し(ごとに生じる独特の間合いの遅さ)にも慣れず。初ハラセツコの美しさよりも「大きさ」に、何となくたじろぐ。
この作品は子供にはムリだろう。大傑作だとは昔から聞いてたけど、うんと若いうちに背伸びして観なくて正解だった。(対して、例えば『ローマの休日』の魅力の一部は五才児にもちゃんと伝わる。)
ともかくも、美容院が出てきたあたりから、引きこまれた私。どっしり、じっくり、昔の人々につきあわされた。
「これ、お母様のお小遣い」のところに一番じーん。泣きはしなかったけど。
尾道でのまとめぶり───東京よりもゆったりしてるはずの田舎で、逆に展開的にはスピードアップしてて、そのへんのギャップが“仕上げ感”となって私をさらに掴みきった。既に紀子の天使度が私の中で120%超えしてる頃だから、末っ子(香川京子さん)との「大人」をめぐる対話シーンで紀子が天使(という語の子供っぽさ)から天女(というさらなる柔らかさ)へと翔け上がってく感が一気に作品の深みをアップ。

一度も泣かなかった。けども、本当に羽衣着てたような紀子の温かさ+爽やかさ+淑やかさが、鑑賞後も三日間ぐらい私の心を離れなかった。日常ふと彼女のことを思い出しては清澄で豊かな気持ちになった。
けど、じわじわと、そんな紀子役を引き立てた杉村春子さんの微悪役演技こそがMVPだと私は気づいていった。「お父さんったら、もぉー。やだなー」のとこの本音丸出しの娘声が可愛らしくて可愛らしくて……。(もちろんこの映画内に悪人は一人もいない。そして善人たちは確実にいた。それがリアルであるということは、この映画は世界の救い!!)

ところで、これの初鑑賞後、『晩春』も借りて観た。原節子さんの女優としての実力(桁外れの映えをふくむ)と能シーンのホラー並みの凄味にやられ、「画面で見るぶんには最高の女優さんだけど、こんな人がもし自分の家族だったらやだなー。毎日、一つ屋根の下にこの大柄な(かさばる派手な顔の)人がいたら疲れるはずー」と心から思ったのだった。



◆おわりに◆

あの最初の鑑賞の少し前頃だったか、満開のお花見の公園で、前を行く若い女性二人(私よりも少し年下風)がこんな会話をしてた。
「私もついに桜の美しさがわかる年になったか」
「よかったじゃん」
聞いた私は、とっくに桜大好き人間に当然のごとくなってたから、変なこと言う子たちねーっと思ったけど、この『東京物語』の良さが理解できる年齢にいつのまにかドンドンなってる自分、というものをあの時の二十代前半ぐらいの彼女たちを思い出しながら今意識してる。
あまり自信はなく書くけど、この映画の良さがわかっていっぱい泣けるぐらいに成長できたことをうれしく思う。今後、新しい家族を得たりオバさんオバアさんになった頃、どんな感想を抱けるのかと想うと、しっかりこれからも人の道を勇気もって強くしなやかに歩んでいきたい。