むさじー

河のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

(1997年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<現代家族の孤独と彷徨>

勢いよく流れる川ではなく暗くよどんだ河、その異臭が漂ってくるような映画である。家族とは名ばかりで、両親は互いに会話するでもなく、父と息子は働く意欲もなくブラブラしていて、雨漏りのする家で三人がそれぞれの暮らしを営んでいる。そこに汚染水にまみれた災いか、息子の奇病が表れるのだが、皮肉にもバラバラになった家族をつなぎとめることになる。雨漏れのエピソードが家族関係の亀裂を象徴するかのように描かれるが、その対策にも右往左往する。
ゲイ・サウナのシーンが最も強烈だ。薄暗いサウナの廊下に腰にタオルを巻いた男たちが回遊し、個室で待つ男との出会いを探す欲望が充満した世界で、その生々しさに息苦しさを覚えた。
そこで父と息子が邂逅するのだが、息子の心象世界が最も色濃く表れたシーンである。息子が父の部屋を訪れたのは果たして偶然なのか、意図的なのか。判然としないが後者である気がした。
息子は両親のように自分を解放できる癒しの場が欲しかった。心の飢えが親に抱かれたい子の思いになり、そのためには父の世界に飛び込むしかない、そんな覚悟のようなものが見えた。だからその後の二人の涙は、こんな形でしか思いを伝えられなかった子の無念、心中を推し量れなかった親の不甲斐なさから流した切ない涙と解した。
何も解決していないエンディングなのだが、不思議と吹っ切れたような余韻を残している。また、人はみな孤独という基盤に立ちながら、それでもなお出会いとか支え合いとかに期待する温かな視線を感じた。
全体的には三人それぞれの動きを俯瞰するように、その心象に深入りせずに淡々と描いている。会話は少なめなのだが、解釈は多様だし映像に言外の意味を込めていて、どことなく文学的な雰囲気を宿している映画という気がした。
むさじー

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