最近のインタビューで是枝は「小津の影響は傍から言われるほど受けてない」とか言ってるけど、この映画は誰がどう見てもカット割が小津。死ぬほど陰気で不穏な小津って感じ。
みんな喪服みたいに黒い服ずっと着てるし、江角マキコのヘタクソな関西弁がもはや不気味だし、画が一生暗くて不穏。マジでホラー映画かよ!不気味すぎてもはや笑えてくる。
第一、ロケーションが一々ヤバい。冒頭の尼崎の高架下(実は、横浜にある鶴見線の「国道」駅の前も凄く似てるのだが、どうやら本当にそこで撮影したらしい)や輪島の池や海辺の風景など、ズルいよね。映画でしか見たことないけど、北陸の日本海に面した風景の陰鬱さは凄い画になるとつくづく思う。
とはいえ、暗い画も黒がしっかり締まってるし、暗すぎて不快になる一歩手前で巧い。クライマックスのアンゲロプロスみたいな葬列や池の周りの追いかけっこなど、平面的なのも含めて構図もかなりブッ飛んでるなあと思ったら、撮影は実相寺昭雄の映画でお馴染み中堀正夫。なるほど...。
室内・屋外問わず長回しが多く、ちょっとタル・ベーラっぽさすらあるテンポに欠ける異様なダラダラ感は好き嫌い分かれるし、別に大して面白い噺ではない。今時、大家の紹介で知り合った子連れの男と大してお付き合いもせず嫁ぐというのはなかなか聞かないから、いつの時代の話なのかもよくわからない。
しかし、子供の時に祖母が行方不明になった江角マキコが夫の浅野忠信を唐突な自殺で失い、悩みつつも再婚相手である内藤剛志を受け入れる、という、映画よりもむしろ純文学向きな(原作は宮本輝)噺をここまで「映画」にできたのは凄い。
正直、この映画の方向性でやっていったらそれはそれで凄い監督になれたのではないか?