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ベネデッタのKSatのレビュー・感想・評価

ベネデッタ(2021年製作の映画)
4.1
齢80を超えたヴァーホーヴェン御大が放つ、トンデモ宗教映画。

まずさ、これをコロナ禍真っ只中の2021年に公開してる時点で頭おかしいよね(撮影したのは2018年らしいが)。ペストでバンバン人が死にまくってる17世紀のイタリアで、それを利用して権力を振りかざす修道女の噺をやるんだから、不謹慎極まりないわな。

ヴァーホーヴェンの映画って、基本的に主人公も含めた登場人物全員頭オカシイのが特徴だけど、この映画のベネデッタもなかなかおかしい。彼女の信仰心がどこまでガチなのかは最後までわからずじまいだが、度々現れる幻視の場面のエグさはなかなかで、狂気じみている。基本的に画面は端正で美しいのだけど、どこか不気味で禍々しい宗教画のような、、、山本芳翠やラグーザ玉、山下りんなどの明治期の日本においてキリスト教や神話、御伽噺を題材に描かれた洋画とかを髣髴とさせる。

ヴァーホーヴェンらしくおっぱいがやたらと出てくるけど、この映画だとそこにキリスト教的な意味合いを持たせているあたり、憎い。ただの性的対象というだけでなく、母乳が出る神聖なものとしても描いている。幼少期のベネデッタは突如倒れてきたマリア像の乳首を咥えているが、成人してからも、聖と俗の区別が付かないままバルトロメアのおっぱいに反応してるようにも見える。

キリスト教というのは固い宗教だけど、例えばecstasyという単語には単なる性的絶頂以外にも、宗教的法悦という意味がある(有名なベルニーニの彫刻『聖テレジアの法悦(Ecstasy of Saint Teresa)』とかが代表例)。この映画はまさにそれをそのまま表していて、ベネデッタは宗教的な法悦と性的絶頂を綯い交ぜにしながら暴走し、権力を手にしていく。

個人的には、ベネデッタ役のヴィルジニー・エフィラも凄いと思ったけど、バルトロメア役のダフネ・パタキアの、美人なんだけどどこを見てるか判らない異様な目力に興味を惹かれた。とんでもない個性だと思う。あと、シャーロット・ランプリングも、相変わらず不気味な演技が上手い。これだけ大物になったのに、まだやるか、というくらいの存在感。スゴすぎ。ダフネ・パタキアには、ランプリングのような個性派に成長して欲しいところだ。

マリア像のディルドやら苦悶の梨やら、物々しく際どいアイテムが次々に出てくるけど、「え、何がアカンの?コレ、当時実在したものですけど」と意地悪に嗤うヴァーホーヴェン大先生の顔が頭に浮かぶ。ムカついた。
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