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ラルジャンのptitsaのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
5.0
7/10 (金) Blu-rayを購入したので観てみました.
こんなに人に対して考えさせるように映画を撮ることができるのか,と度肝を抜かれました.一つ一つのショットに意味があるのですが,その焦点が必ずしも中心人物に合っていないので,集中して観なければ繋がりがすぐにわからなくなってしまうのです.加えて,感情の起伏をほとんど出させない演出なので,より今我々は物語のどの地点にいるのかを考えさせられる構成になっています.例えば,イヴォンが騙され警察に追われて事故に遭ったシーンでは,すぐに裁判所のシーンに飛び,捕まったことが無駄なく示唆されます.また,エリーゼからの手紙が来るシーンも,一度検閲官による選別のシーンを挟んだかと思うと,次には枕に泣き伏すシーンに移っています.

BGMも一切ないので,観客はただ真摯に筋と人間関係を追っていくほかはありません.筋自体はそれほど難しくないですが,これほど集中力を途切らせないように映画を構成することができるのかと新鮮な驚きを受けました.もちろん,ショットにも一切の無駄がなく,間延びしたシーンが全くないので,刺激的な効果はないにもかかわらず,引き込まれっぱなしでした.

貨幣に媒介される物々交換が,偽札という不協和音を挟むことによって,さまざまな人々に不幸を呼び起こし,最終的に元に戻れない地点にまで行き着くという寓話的な意味の込め方も素晴らしいです.
決して娯楽ではない,芸術としての映画です.こういう映画をもっともっと観てみたいと強く思いました.とりあえずブレッソンの他の映画を当たってみようと思います.
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