シズヲ

追跡者のシズヲのレビュー・感想・評価

追跡者(1970年製作の映画)
3.6
「農場を見た?」
「虫食いトウモロコシ、裏には干からびたジャガイモ」
「ハエが喜ぶ牛数頭とカラスだけ」
「でも、あなたよりマシね」

泥酔時の過失で殺人を犯したカウボーイ集団を法執行官が追跡する。“余所者のガンマンが町の犯罪者と対峙する”という大筋自体は極めて典型的。しかしバート・ランカスター演じる本作の主人公=執行官は単なる善玉として描かれていない。彼は徹底して法を守るために行動する。その過程で個人の事情や町の秩序と対立することがあっても、あくまで冷徹に正義を貫く。それ故に人々から疎まれ、やがて憎まれていく。“正義”と“町”のこうした対立構図は、なんだか『荒野のストレンジャー』辺りを思い出す。主人公が悪役ガンマンのような黒ずくめの出で立ちをしているのも面白い。

執行官と対峙する悪役牧場主もなかなかに絶妙な造型。土地への誇りと過去に身内を失った経験から暴力を否定し、あくまで示談という形で穏便に事を済ませようとする。その過程で実際に人殺しをした部下を庇ったりはするし、最終的には行動に出たりするものの、少なくとも頑なな主人公よりは余程人情味がある。こういった“ねじれ”から一種の時代性を感じてしまう。古典西部劇めいた骨子の中で曖昧に描かれる善悪の境界線、“遵守されるべき法”と“開拓地の自治・自立精神”のせめぎ合い。執行官の正義に投げかけられる疑問からは、アメリカの何かが崩壊した70年代の“混乱”が垣間見える。一歩引いた立ち位置から主人公を見つめる保安官=ロバート・ライアンの好演を始め、脇役陣もそれなりに印象に残る。

テーマや作風は興味深いものの、そこを貫徹できているかと言うと後一歩なにかが物足りない印象ではある。この時期の西部劇は革新的で尖った秀作が多いだけに尚更そう思ってしまう。また暴力描写は十分に冷徹だし、早撃ちのシーンもそれなりにあるけど、全体を通して展開の緩急はあまり無い。やたら多用されるズーム撮影もそんなに好きではなく、ジェリー・フィールディングの音楽もちょっと大仰に感じた。それでも取り返しが付かなくなってしまうラストは苦々しい虚しさに満ち溢れている。向こうは私刑人なので前提は異なるけど、同監督作『狼よさらば』の主人公がいつか辿るであろう末路めいてる。正義を貫こうとした執行官は、もはや破壊者に等しかった。
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