ひろ

どん底のひろのレビュー・感想・評価

どん底(1957年製作の映画)
3.5
マクシム・ゴーリキーの同名戯曲「どん底」を江戸時代に置き換えた黒澤明監督による1957年の日本映画

シェイクスピアの戯曲「マクベス」を映画化した「蜘蛛巣城」の次に監督したのがこの作品。戦国時代の設定にも関わらず「マクベス」を忠実に再現したと言われたように、この作品も江戸時代の設定なのに、ロシア文学の雰囲気を見事に表現している。ユーモアを描きつつも全体的にロシア文学らしい物語だった。

筋書きもなく、主人公も存在しない原作と同じく、筋書きも無ければ主人公もいない。よくもまあ映画化したなっていう内容だが、役者の演技が素晴らしいから目が離せない。そんな役者の演技を引き出したのは、黒澤明の代名詞でもあるマルチカム手法による撮影だろう。複数のカメラで一気に撮影するから、役者の集中的が高まってリアルな演技になっている。映画なのにリハーサルを1ヶ月以上やるんだからすごい。

主演は三船敏郎だが、主人公がいない物語だから珍しくそんなに目立っていない。大家の女房お杉を演じた山田五十鈴やその妹かよを演じた香川京子といった昭和の大女優の方が迫力があった。嘉平を演じた左卜全は主人公と言っていいぐらいの名演だったし、いつも黒澤映画の脇を固める俳優たちが活き活きと演じていたから楽しかった。

いかにもロシア文学な内容だけに、あまり救いもないから楽しめる物語ではないけど、個性的過ぎる昭和の名脇役俳優が、最高に輝いている作品なんで、ぜひ演技を味わってもらいたい。本当にこの時代の役者の個性は素晴らしい。
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