ほーりー

麦秋のほーりーのレビュー・感想・評価

麦秋(1951年製作の映画)
4.4
「四十にもなってまだ一人でブラブラしているような男の人ってあまり信用できないの。」

うーん、そこのところどうなんでしょうか?小津カントク!(公開当時47歳独身)
 
これも小津安二郎監督の戦後の代表作のひとつ『麦秋』。これにて紀子三部作全部レビュー完了である。
 
北鎌倉に住む老植物学者(演:菅井一郎)とその妻(演:東山千栄子)は、医師である長男夫妻(演:笠智衆&三宅邦子)と孫二人、そして三十路近くにもなってまだ嫁に行っていない娘・紀子(演:原節子)の七人で暮らしていた。
 
ある日、紀子は勤務先の上司(演:佐野周二)から縁談の話を持ち掛けられる。

相手は四十過ぎだが会社の重役である実家も地元では名士で通っているという申し分ない身分だった。
 
家族のみんなは縁談に喜ぶが、紀子自身ははっきりと態度を示さなかった。

やがて戦死した次兄の友人で今は長兄の下で働く医師(演:二本柳寛)が秋田の病院へ転勤になると聞き……。
 
脚本の野田高梧自身が会心の作と云っている通り、人物たちの何気ない行動が複雑な歯車のように絡み合っていて確かにこれはなかなか書けないホンだと思った。
 
例えば、高橋豊子が心臓を診てもらいに笠の病院を訪ねて、原のお見合い話があったことを漏らす場面。あるいは笠が急遽夜勤で帰れなくなったことを告げに二本柳が家に訪ねてくる場面(一緒に食べるケーキも含めて)など、いずれもさり気ない場面なのだが伏線の張り方が上手い。
 
冒頭の二本柳が読書好きというのも後半に活きてくる。

徐州戦線で戦死した原節子の兄が、当時『麦と兵隊』を愛読していた二本柳宛に麦の穂を同封した手紙を送ったというくだりも、セリフ上だけのシーンではあるものの情景が眼前に浮かんでくるようである。
 
しかもこの麦がラストの奈良・大和の麦畑のシーンにも直結しているのが素晴らしい。
 
あと芸達者だなァと思ったのは原と淡島千景の秋田弁の掛け合い。イントネーションが見事で、こういう本筋とは関係ないところに何ともいえない可笑しさがあるのが小津映画の良い所だと思う。
 
菅井一郎がラスト「我々はまだいい方だ」と言っていたが、このあとの「東京物語」のあの一家と比べると、確かにみんなバラバラに住むことにはなったが、心の奥ではまだ深く結びついている点で遥かに幸せのように思う。

■映画 DATA==========================
監督:小津安二郎
脚本:小津安二郎/野田高梧
製作:山本武
音楽:伊藤宣二
撮影:厚田雄春
公開:1951年10月3日(日)
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