ふき

國民の創生のふきのレビュー・感想・評価

國民の創生(1915年製作の映画)
4.0
映画の父とも言えるデヴィッド・ワーク・グリフィス監督が、トーマス・ディクソン・Jr氏の小説『クランズマン』を映画化した作品。
一〇〇年以上前に製作された、三時間を超える大作。

舞台はアメリカ南北戦争を中心に描かれる一八六一年~一八六五年の第一部と、『クランズマン』の映画化箇所である一八七〇年代の第二部からなる。
アメリカの歴史的事実を踏まえたお話だが、ざっくりとした地理感や戦争の結果を知っていれば問題ない。主要登場人物もペンシルベニアのストーンマン家、サウスカロライナのキャメロン家に絞られているので、最初の数十分で把握すれば混乱することもないだろう。

とはいえ、この分かりやすい「お話」を鵜呑みにしてしまうとまずいのが、本作『國民の創生』の厄介なところだ。
本作に興味を持つ人の大半の共通認識だと思うが、本作の世界観は「KKKは白人を護る正義の味方」「奴隷と幸せに暮らしていた素朴な南部を、工業化された北軍が侵略した」というものであり、当然ながら事実とは違う。原作者や監督が意識的にしろ無意識的にしろ抱いていた、差別意識を表したものだ。
その事実を客観的に判断できる知識がなければ、本作は危険なものとなる。公開当時にKKKを復活させた白人たちのように、誤った正義感で存在しなかった憎悪を生み出してしまうだろう。
この件は多くの解説や考察があるし、映画評論家の町山智浩氏の『最も危険なアメリカ映画 『國民の創生』 から 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』 まで』にも詳しいので、本作を見た方は是が非でもチェックして欲しい。本作を丸ごと肯定されるのはまずいが、漠然と「なんかヤバイ映画らしいぜ」「グリフィスってヤツは最低のレイシストなんだな」と理解した気でいるのも逆にまずいからだ。

そういった点を加味しなければ、本作は映画史的に重要な作品だ。『市民ケーン』や『戦艦ポチョムキン』と並んで映画芸術を作った一作であり、映画の勉強には欠かせない。
だが広く一般にお勧めかどうかには、否と言いたい。現代の映画に繋がる発明が多く含まれているが、それは我々の視点からすると「普通」だからだ。また現在日本で見るなら一五二分版か一八五分版になるだろうが、私が他人に見せた経験上、八割方が退屈に感じていた。色々な意味で楽しむために高いリテラシーが必要な作品と言える。

ところでfilmarksを始め日本の映画情報サイトに載っている「一〇四分」のバージョンは、どこで見られるのだろう。冗長な部分をバッサリカットしたバージョンがあるなら、ぜひ見てみたいのだが……。
ふき

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