まりぃくりすてぃ

ギターを持った渡り鳥のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

ギターを持った渡り鳥(1959年製作の映画)
3.0
もう何年も前だけど、、
久々に会う祖母を喜ばそうと「小林旭と浅丘ルリ子が約50年ぶりに共演する夢コンサート」のチケットをゲット。内容凄いらしい三時間ぐらいあるそのコンサートに連れてった。
旭のことは私は、ヤクザっぽくて中小企業のワンマン社長っぽくて丸たんぼっぽい風貌と、大ヒット曲のいくつかを知ってる程度だった。祖母も特別に彼贔屓ってわけでもなかったけど、まあ演歌とか聴かせておけば孝行になるからね。
それで、予習を兼ねて若い頃の旭を私は見ておこうと思い、さっと調べたら『ギターを持った渡り鳥』っていう映画がデビュー(即、一世風靡)のきっかけだったってことで、近所のつたやに借りに行ったら、韓流ドラマが何千枚も置かれてるのに邦画のこの古典がなくて、びっくりしちゃった。
結局、予習らしい予習もできないまま、祖母の手をひいて馴染みのない街へ。けっこうチケット代は高かった。何せ三時間超えのコンサートだから。トイレとか大丈夫かな? どうやら、映画共演の多かったゲストのルリ子と映画の想い出を語り合ったりもするらしい。祖母も銀幕の旭は見たことないとのこと。
会場は、もちろん年配客ばかりだった。まちがいなく私が最年少。始まったら、旭たちはまだ現れず、ステージ上の大プロジェクターで映画を見せられた。
『ギターを持った渡り鳥』だ。ラッキー!! つたやで借りられなかった私にとっては!
始まってみたら、デビュー時の旭、すっごぉぉぉぉぉぉくカッコいいじゃん!!!! 主題曲も彼が唄ってる。かなりうまぁい。(共演のルリ子はまあどうでもいい感じだったけど。)とにかく旭が素敵すぎるぅっっっっっっっ!
(でも、集まったみんなはだいたい長年の旭ファンだろうからこの映画を観てないってことはまずないよね? こんなこと予告されてなかったのにいきなり延々と旧作一本見せられて、不満な人いるかも、とちょっと思った。)

いろいろ戦う映画内容にそこそこ充足して、そして満を持して旭が登場。ゲストのルリ子もいる。そして始まったのは、二人で若かりし頃の映画出演の想い出をひたすら語り合うというリラックスした流れだった。
当時の私はあまり映画好きじゃなかったけど、まあいろいろ興味深かった。台湾で大人気だった頃にこの二人が台湾ロケか何かに行ったら、沿道の熱狂ファンたちの大群衆に車を取り囲まれちゃって、車内のルリ子が怯えて泣きだし、隣の旭に励まされたこととか。。
にしても、ルリ子は喋ってても声に張りがない。あと半年ぐらいで老衰で死んじゃいそうな雰囲気。私の祖母のほうがよっぽど活き活きしてる。旭は、まあ、ゴジラに踏みつぶされても死ななそうないつものふてぶてしい感じだ。にしても、銀幕のあのイケ旭の面影はどこに???
太った旭と死にそうなルリ子は、それから延々と喋りつづけた。リラックスというより、はっきりルーズ。しかも映画の話ばかり。ルリ子はかつての恋人である旭を心から信頼してるみたいだ。もちろん私ぁ飽きた。これって、、コンサートじゃないの? いつになっても喋りが終わらない。一時間、、、を超えた。喋ってるほうも何かくたびれてきてるみたい。

ほぼ満員の年配者たちは当然トイレが近い。途中で席を立つ人は当然続出。壇上の二人はまったくお喋りをやめようとしない。(結果的には、一度も休憩時間は設けられてなかった。)

私の右隣席には祖母、左隣席にはどこかのお婆さん。たぶん独りで来てる。そのお婆さん、あきらかにイライラしてて、そのうちに「まだ唄わないの?」「もう……」「何よ……」「あぁ……」「あーぁ……」と溜め息がしょっちゅう。たぶん会場のいろんなところで同じ囁きが出てたと思う。私と祖母は各一回ずつトイレへ抜けた。
トイレから戻ると、まだ旭たちは呑気に喋ってた。唄う気などなさそうだった。その催しは「コンサート」と銘打たれていたんだが。まあ、何があっても最後には華々しく唄ってくれるだろう、私もみんなも大好きな『熱き心に』とその当時の最新曲で六十周年記念曲であるナカナカ魅力ある『素晴らしき哉人生』をまさか唄わないなんてことはないだろう、それと『昔の名前で出ています』も当然唄うだろう、、、と期待して信じて、辛抱強く私(と祖母)は一度のトイレ以外はじっと穏やかに座りつづけたのだった。
ようやくコンサート開始ッ! まずはルリ子が一曲だけ。この人は一曲しかヒットがないからね。一応ちゃんと唄ってるみたい。でもとにかくあと数年で死ぬんだろうなと心から思った。(※ 当時本当に私はそう察知したわけなんだけど、その後彼女はちょっと体調を持ち直して老衰せずに未だに生きてるようです。にしても、化粧が濃い。。。。。)
そしてついに! 旭登場だ!!
何か、古い古臭いのを次々と唄う。車がどうしたこうしたとか。軽やかに唄ってくれてます。『水たまり』っていうのが唯一まあまあいい曲だった。
しかし。
中期以降の大ヒット曲を一つも唄わない。え? 芸能生活何十周年とかそういのも兼ねてたんじゃなかったっけ? この人、破産人生を『熱き心に』とかのお蔭で乗り切ってきたんじゃなかったっけ?
え、まさか、『素晴らしき哉人生』も唄わないの???
とうとう、私の聴きたかった曲が一つも唄われないまま、最後に再び登場したルリ子とのデュエット曲で締められちゃった。(コンサート自体はほんの三十分程度だった。)
左隣のお婆さんは機嫌が直ったのか直らないのかよくわからなかった。右の祖母は何かよくわからない感じでお地蔵さん化してた。(祖母はべつに旭のファンでもルリ子のファンでも映画ファンでもなかった。)
終了後、会場ロビーではデュエット曲CDといくつかのグッズの売りつけが凄かった。(その後数年間にわたって私のところにはその興行会社からの物品売りつけ郵便物がしゅっちゅう来るようになった。グルコサミンとか、涼感シーツとか。)それはべつにかまわないんだけど、私が思ったのは、やっぱり人に作ってもらった大ヒット曲たちへの感謝というものはずっと持ってもらいたいもんだな、ってのと、あと、デビュー期の銀幕のカッコいい姿が別人すぎる。。。。。

世界最強ザ・ローリングストーンズには神が三人いる(いた)。死神さま(悪い意味じゃなく)のブライアンジョーンズと、生き神さまのキースリチャーズと、ギターの神さまのミックテイラーだ。ところが、若い頃(ストーンズ在籍時)に貴公子のように美しかった脱退者テイラーが、90年代だったかな、ソロ来日したりして姿を久々に公にさらしたらしい。そのテイラーは、ギターの腕は落ちてなかったようだけど、ブクブク中年太り。そのブク姿に日本の多くのストーンピープルは衝撃を受けて少し怒り、対照的にまったく太らないミックジャガーたちはやっぱ偉い、ってことになったらしい。人間は、若くなくなったからといっておいしいものばっかり食べて太っちゃダメだと思う。

[東京国際フォーラム]