Melko

私が棄てた女のMelkoのレビュー・感想・評価

私が棄てた女(1969年製作の映画)
3.7
「じゃあいっぺんも訪ねてやらなかったの?あれから。つまり、もういっぺん捨てたわけね。」

「あの人あなたにとって、なぁに?遊び?恋人?」

「優しさの他には、何一つ持ってなかったからな、彼奴は…」

浮気よりも、本気の恋の方が女には辛い

インパクトのあるジャケに、胸糞悪いあらすじに、覚悟して見た。泣きはしなかったけど、ものすごく辛い。

吉岡努は小さい男だ。
なけなしの自尊心と大きな虚栄心。野心家なのに不器用すぎて事故ってばかりの生き方。
傲慢になりきれず、妻と昔の女の間を行ったり来たりの、女々しくてダサすぎる男。

その妻マリ子はお嬢だけど現実的で気も強く美人でスタイルも良い。吉岡の自分勝手なところに時々振り回されつつ、聞き分けの良い女を演じる懐の深い女。
昔の女ミツは、器量は良くないし田舎くさいけど、気さくで快活。吉岡のことを疑いなく信じて愛する純朴な女。

二兎追うものは一兎も得ない

吉岡は3度ミツのことを棄てた

そして、自分が棄てたせいで後味の悪い別れになり、且つ自分の気持ち的にも将来にとっても邪魔な存在のミツを、吉岡がわざわざ追いかけて会いに行ったり、もう一度抱いた理由
普段なら気持ちが悪くて考え及ばないこの部分、ミツがあまりにも物静かで自己主張なく耐える女だったので、今回は想いを馳せることができた。
自分を品定めしたりアレコレ指図せず、全面的に肯定して純粋に愛してくれるミツのことを、吉岡は本当に心から好きだったんだと思う。
ただ、ミツと一緒になっても自分が何にもなれないことが分かっているから、自分のために棄てた。小屋に置き去りにするなんて卑怯この上ない。
ミツは、そんな酷い男の結婚に対して「良かったね」って心の底から言える、男前な女なのに。

流れ作業で思いやりのカケラも感じられない中絶現場が薄ら寒くて怖かった…

そして、そんな彼女の学生時代からの友達しま子
売春の斡旋をし、ミツのことも利用しようとしたように見えたけど、私的にはしま子はホントにミツのことを大事に思ってて、彼女のことを思って吉岡に復讐しようと思ってたんだと思う。しま子の予想以上にミツが吉岡のことを大事にしてたが故にあの悲劇になってしまうわけだけど。

モノクロで静かに不気味に進めてきたのに、ラスト急にカラーになってしまったのはちょっと冷めた。
あそこから先は吉岡の妄想なんだと思う。
何もかもを失った時点で吉岡の人生は終わった。
2人の女に対してあまりに不誠実なばかりか、開き直ったんだもんな。当然じゃ。
「俺はミツじゃないが、ミツは俺だ」とかどの口が言ってんだ、お前とミッちゃんを一緒にすんな、下衆が。自分の欲望しか頭にないくせに。とにかく吉岡の姿が終始情けなくて哀れである。

そんな壮大な嫌悪感を抱かせる吉岡役の俳優の演技、一本調子なのが気にはなったけど、まぁまぁ良かった。
マリ子役の浅丘ルリ子は満点美人
そして、暗く地味な学生時代から、ボロボロの中盤、生きる意味と輝ける場所を見つけた快活な終盤と、1人の女の人生を演じ切った小林トシ江はすごかった。これがデビュー作とは。威勢のいい長唄は本物なのね。
ご本人が明るく幸せそうなおばあちゃんになられてて、ミツの人生の雪辱を果たしたようで、なんだか嬉しい。
Melko

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