こたつむり

我が家の楽園のこたつむりのレビュー・感想・評価

我が家の楽園(1938年製作の映画)
3.8
銀幕の向こう側にある楽園。
さぁ、メンソールの煙草を持って出掛けようか…。

とても楽しい映画でした。
劇場公開は1938年…と古い作品なのですが、フランク・キャプラ監督の切り口は絶妙ですからね。気構えずに楽しめるコメディに仕上がっていました。

ただ、楽しい作品…ではあるのですが。
テーマを全面的に受け入れることは出来ませんでした。正直なところ「大切なのはお金じゃない」とか「既成の価値観に縛られるな」とかのメッセージが…自分には青臭く感じてしまったのです。

そう。薄汚れちまった大人ならば。
家族を養うために望まざる労働も行いますし、社会全体を考えれば義務を負担すべきだと知っているのです。だから「大切なのはお金じゃない」と言われても、限定的にしか頷けないのです。

でも、考えてみれば。
本作公開時は、映画が“娯楽の王様”だった頃。
映画の持つ役割として“現実を少しでも忘れさせる”…そんな側面がありますからね。当時の世界情勢が苛烈であったことを踏まえれば、理想主義的な部分が前面に出ていても当然の話。現代の視点で全てを判断してはいけないのでしょう。

また、違う視点で考えてみれば。
当時の大人達だって本作が理想主義であることは解っていたはずです。それなのに、アカデミー賞を受賞したということは…彼らも“大人の判断”で作品を楽しんだということ。確かに僕だって「うひ」とか「あふ」とか奇妙な声を上げながら、美味しく堪能しましたからね。

特に主演の二人が公園で踊る場面。
“既成の価値観に縛られない”というテーマがビンビンと伝わってくるのですねえ。いいよ。いいよ。映画くらいは理想主義でいいのだよ。…なんて思ってしまうくらいに良いのです。しかも、ジーン・アーサーとジェームズ・スチュワートのベストカップルですからね。そりゃあ、素敵に決まっているのです。

まあ、そんなわけで。
たかが映画、されど映画。
たとえ、現実と乖離していても楽しめれば良し。
「少しでもいいから理想に届け」と指を伸ばす気持ちになれるならば、さらに良し。そして、僕のような薄汚れちまった大人でも…ひとときの楽園を満喫することが出来る…そんな良作でした。

最後に余談として。
劇中で“文鎮”代わりに置かれた子猫…あんな可愛い“理想”ならエブリシングOKですよね。
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