こたつむり

監督失格のこたつむりのレビュー・感想・評価

監督失格(2011年製作の映画)
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♪ あなたがそばにいれば
  しあわせじゃなくてもしあわせ

2005年に亡くなられた林由美香さん。
僕は寡聞にして知りませんでしたが、AV業界では有名な女優さんだったのですね。確かに本作から伺える“不安定さ”は魅力的。母性と少女の両方の顔を見せられると男は容易く堕ちるのです。

ゆえに平野勝之監督の気持ちも解るわけで。
間近に居たらギュッと鷲掴みになるでしょうね。しかも、若かりし頃の恋愛は“オリジン”になる可能性が高いですからねえ。彼女の存在が“自らを構成するピース”になってしまうと、そう簡単に引き剥がせなくなるのです。

だから…本作が必要だったのでしょう。
もう一度、自分の足で歩いていくために。
彼女と過ごした時間を記録し、それを冷静に捉えることで、こびりついた“何か”を祓い落そうと考えたのだと思います。

そして、その覚悟は伝わってきました。
何しろ、等身大の林由美香さんの表情がギュッと詰まっていますからね。笑って、泣いて、怒って、落ち込んで、諦めて、憧れて、恋におちて。その一瞬と向かい合っているのです。

本当に。
人は誰かにとって掛け替えのない存在。
その単純な事実が胸を切り裂くのです(そして親よりも先に逝くことの不幸さよ)。最後の一瞬まで“生きる努力”を忘れてはいけない。そう再認識しました。

うん。自分も哀しみたくないけど。
誰かを哀しませたくもないなあ。

まあ、そんなわけで。
ご冥福をお祈りする以外…何もできない作品。
本作をプロデュースした庵野秀明監督も祈るような気持ちで平野監督の背中を押したのでしょう。そして、その想いに応えた作品に仕上がっていたと思います。

そして、鑑賞したあとに外に出て見上げれば。
空は高く、青く。キラキラと輝いて。
これだけはずっと変わりませんね。

嗚呼、目頭が熱い。
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