めしいらず

天使のくれた時間のめしいらずのレビュー・感想・評価

天使のくれた時間(2000年製作の映画)
4.0
人生の岐路で恋人より仕事を選んだ男は13年後に成功者として人生を謳歌。何の不足もない人生だと自負していた。そんなある日謎の男と出会う。翌日に男が目覚めると彼を取り巻く世界は一変。再会した謎の男は「煌めきを見せている。答えは自分で考えろ」と謎の言葉を残して去る。そこは13年前に選ばなかった恋人とのその後の人生だった。結婚し子供を儲け義父の店を手伝いながらこぢんまりした家で家族と暮らす。贅沢は出来ない暮らしぶりだけれど家族や仲間との繋がりは濃い。最初男は今までとのギャップに戸惑い馴染めずにいた。何もかもが安っぽく自分が惨めに思えた。でも小さな幸せの灯火をみんなで囲み暖かみを共有するような家族や仲間との日々に次第に心ほだされていく。満足していた筈のそれまでの人生に決定的に足りなかったものが少しずつ沁み入るように理解されていく。それは愛だった。愛すること愛されることの本当の意味を彼は知らなかった。それまでの彼は”私の人生”を生きていた。一方で今見ているのは”私たちの人生”。人生における主語が違うのだ。”私たち”でなければ意味がないのだ。自分ではなく愛する者のために尽くし生きる人生は、巡り巡って愛する者が自分を幸せにしてくれる人生でもある。それがどんなに素晴らしいものであるかを彼はずっと知らなかった。こればかりは自分で気づかなければ意味がない。謎の男は彼にそれを気づかせに来た天使であり、今見ているのは天使がプレゼントしてくれた夢だった。「煌めきは一瞬のことだ。永遠には続かない」。答えが見つかったときにその夢は終わる。出来るだけ夢の時間を長引かそうと頑張る男の姿が健気だ。そして元いた世界で彼が全てを打ち遣って最初にしたこと。13年前の過ちを彼は正そうと奔走する。立場が入れ替わってあの日と同じように空港で対峙する二人。その後にどうなるのかは示されないけれど、感触はどうやら悪くないように見えた。誰もが人生に完全に満足している訳じゃないし、偶には別の人生を考えない訳ではないけれど、それでも折り合いつつ今日をより良くあらんと精一杯生きている。人生に不満の種を探せばキリがない。だからこそ小さなことに幸せの種を見つけられる人生が尊く輝かしく見えるのだ。
新しい時代の「素晴らしき哉、人生!」のような、これまたとびきり素敵な映画だった。小さな娘の暗躍がいい。彼女の「おかえり、パパ」が最高。映画の内容の通りではあるけれど、邦題が安っぽいのが勿体ない。
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