Longsleeper

麦の穂をゆらす風のLongsleeperのレビュー・感想・評価

麦の穂をゆらす風(2006年製作の映画)
3.8
アイルランド独立戦争が内戦へもつれこんだ過程を、田舎の一兵士の視点から描く。
やたらと抵抗せず平和に生き抜くべきだと考えていた弟デミアンが、先に活動していた兄テディを差し置いて、愛国の闘士として苛烈な戦いに身を投じていくようになる。

舞台がダブリンやベルファストではないため、歴史的な動きは映画館のニュースや電報で伝えられるに留まる。
そのぶん、マイケル・コリンズやデ・ヴァレラたち上層部に振り回される感は強く伝わる。
何だかんだ街並みの立派な都会が舞台になるより、生活を共有する同郷の人たちとも引き裂かれる描写が生々しく、真に迫っている。
狙った演出はほとんどなく、ラストまで救いがないのでいつまでも余韻が残って考え続けてしまう。
ドキュメンタリーのような淡々とした展開は、ケン・ローチ監督らしい。

一丸となって戦ってきたアイルランド義勇軍は、念願の休戦にこぎつけたのに、コリンズたちの結ぶ英愛条約に失望する。
北アイルランドを手放し、独立ではなく自治しか認めない内容を受け入れられない急進派と、条約締結してこれ以上の戦争を避けたい穏健派で分裂していく。
やることは独立戦争と変わらないけど、今度は一緒に戦った人を撃つことになる。
仲間同士で殺し合う陰惨さは、北アイルランド紛争を描いた『ナッシング・パーソナル』と同じ。
1920年ごろのアイルランドで持ち上がった独立戦争のあと、その後50年ほども戦闘が続いた根深さと影響の大きさが凄まじい。

デミアンは、クリスを裏切り者として殺したとき、戻れない一線を越えてしまい、戦いをやめることができなくなった。
戦いを放棄したら、クリスの死も、自分が手を汚したことも無駄になってしまう。
内戦がなければ、あのままロンドンに行っていれば全然違う人生が待っていたと思う。
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