岡田拓朗

東京暮色の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

東京暮色(1957年製作の映画)
4.0
東京暮色

もはや家族としての繋がりをなしていない表面的な首の皮一枚で繋がっているような家族は、ある真実が明らかになることでお手本のように崩れていく。
現代でいう「淵に立つ」のような脆い家族関係をじわじわと露わにしていく。

本当はこうなりたいのに、期待できずに諦めざるを得ない次女とそれに対して何も本質的なことが言えない長女と正論を振りかざし続ける父。
少し素直になれれば、変えられればもっと幸せな家庭を築けたはずなのに。
頑固はある一線を超えてしまうと、基本的によい方向には向かない。
誰かが我慢している上に成り立っているから。

向き合わずに時を刻んできたからこそ溝が知らず知らずのうちに深くなっていき、真実が明らかになったときにはもう取り返しがつかないことになっていた。

そんな家族に愛はあったのか。
家族を朗らかに描く印象の強い小津安二郎監督が、家族の多様性を描く監督の印象に様変わりした作品。

ときに正しさは人を傷つける。
誰もがどんな事象においても、折り合いをつけて生きることができるとは限らない。

その辺りの人と人の関わりの中の負を上手に表現していて、小津監督の容赦なさが垣間見える作品とも言える。

決して妥協しない前のめりさが滲み出ていて非常によかった。

このそこはかとない世界観を作り上げるキャスト陣、特に原節子にただただ感服。
あの危うさは若さゆえの。
岡田拓朗

岡田拓朗