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SIRENAのryosukeのレビュー・感想・評価

SIRENA(1947年製作の映画)
3.8
金獅子賞受賞作品でチェコ映画が世界的に注目されるきっかけとなった作品ということで鑑賞。
炭鉱が舞台であり、粉塵や転がる石、溶けた鉄等が美しく映し出される。鋭角に切り取られた鉱山は面白い構図で捉えられる。
娘を亡くした母親が棚の中から娘の服を取り出す場面は、長回しと影の利用により怪しく悲しいシーンになっており印象的。
父権的な父親が不愉快に描かれるが、彼のアル中も横暴も異常な負荷の労働のせいだと思うともの悲しい。
アル中の父が幻覚を見るシーンでは、多重露光を用いて空中に娘の目が映し出され、更にその周りを目が回転しているという演出が用いられる。「メトロポリス」を想起させられた。人間性を無視された労働者というテーマは共通しているのでオマージュだろうか。
不貞を目撃した鉱夫たちが下衆な笑い声をあげるシーンは労働者を善き者として捉える本作から少し浮いていて逆に強く印象に残った。
社長の家の前のシーンでは、一つのきっかけによって堤防が決壊するかのように一気に労働者たちの怒りが増幅していく様を迫力満点に示す。犬の恐ろしさが細かいカット割りで的確に表現される。
部屋の中を羽毛が飛び散る様は美しく、窓から椅子が投げ出される様はチェコお得意の窓外投擲事件を想起させる。
無慈悲な軍隊による鎮圧後、羽毛がひらひらと舞う部屋に金魚鉢だけが無傷で残っているというショットは悲しく、美しい。労働者が金魚鉢には手を付けないことで、労働者の善性を表現しているのだろうか。
まさか小さい娘も撃たれてしまうとは...
圧倒的な暴力により再び持ち場に労働者が戻った後、闇夜の中で稼働する炭鉱の機械を、劇伴も相まって禍々しく、怪しく、美しく映し出す。ここでも「メトロポリス」のモレク神のシーンが想起された。
ラスト、全てを失った母親が画面奥に遠ざかっていき、観客との間に遮断器が下りる描写も効果的。虚しさをきっちり画で表現する。
全編に渡りモノクロ撮影を活かした光と影の演出が用いられる。
音楽は若干過剰だった気もする。(音も大きい)
男性よりも女性や子どもの力強さを描くことを意識して作られているように思える。
教育機関や上層部で用いられるドイツ語への敵意も随所で示され、ナチスの占領から解放された直後のチェコのナショナリズムも感じる。
全体を通してよくできているが、金獅子に値するほど飛びぬけた部分もないかなあという印象。前半は見るべきシーンが少なく若干退屈。
基本的には資本家憎しで労働者賛美の映画であり、共産主義国化途上のチェコ国営映画会社らしい作品である。
確かにこんな映画を公開時の時代に見せられたら「万国の労働者よ、団結せよ!」という気分になってしまいそうである。映画のプロパガンダ力について改めて考えさせられた。
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