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荒野の用心棒 4K復元版のryosukeのレビュー・感想・評価

荒野の用心棒 4K復元版(1964年製作の映画)
3.9
 初っ端から、泣き叫ぶ子供の足元を狙って銃を乱射する敵役。本作が、古き良きハリウッド西部劇では倫理的にアウトであろう描写で幕を開けるのは、本作がマカロニ・ウエスタンの鏑矢であることを象徴しているように思う。男たちが人殺しで金を稼ぎ労働をしなくなった町という極端に堕落した舞台。窓の向こうから物音がして、窓を開けてみると棺桶職人がご挨拶。ほとんど非現実的な程の死の町が面白い。後の『ウエスタン』の濃密な作家性と比べるとまだ薄味だが、退屈なシーンがなく、理想的なテンポで進んでいく良質な娯楽映画だった。有名なモリコーネのメインテーマも良い。
 西部劇の主人公については、その超人的な手腕の示し方にセンスが出るものだが、見張りの足元に連射して狙いの位置に誘導し、綱を二本撃ち抜いて巨大な板を落下させて気絶させるってのは面白い。
 金塊の在処を探しているのだろうか、イーストウッドが樽をノックするする挙動と、墓場での撃ち合いがクロスカッティングされる。人の命を奪う行為が単なる金儲けの手段に堕していることを的確に示す。
 早駆けについては、平地ではなく斜面で行われるものが面白い。ロホの手下たちが、女を監禁していた小屋から急いで屋敷に戻る様子と、ラバに乗って急斜面を降りるイーストウッドがワンショットで交錯する。
 古典的西部劇のヒーローはここまでボロボロの血塗れになることはないだろうという姿になったイーストウッドの窮地の切り抜け方。ほとんど神話的な程に全ては彼の思い通りになる。チマチマ準備しているところは見せず、大樽が一瞬で二名を殺し、完全に思惑通りに敵の全てが部屋に入ったところで、マッチを擦って投げる僅かな挙動だけで戦況をひっくり返してみせる。
 期待していたよりも暴力が薄味だなとは思っていたが、燃料入りの大樽を何発もぶち込んで爆炎を起こし、堪らず出てきた者を一人一人虐殺していくシーンは苛烈だった。この「ショー」を棺桶の中から「見物」するイーストウッドは、ヒーローでありながら死神でもあるようだ。
 そしてラストシーン、翻案元の『用心棒』のように砂埃が巻き上がるクライマックス。これだけ引っ張ってきておいて黒澤に無許可というのは凄いな。お互いメジャーな領域で商売しているのに60年代でもそんなものなのか。撃たれても撃たれても起き上がるイーストウッドの怪物的な姿。心臓を狙え、そうすれば殺せるというセリフも吸血鬼じみている。鉄板は相手の実力をある程度信頼し、そして見下している態度の表れだ。死の間際のふらつく主観ショット。撃たれて死ぬときにはこういう風に太陽の光が眩しいはずだ。
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