ryosuke

夕陽のガンマン 4K復元版のryosukeのレビュー・感想・評価

3.8
 ファーストショットである超ロングショットに銃声が鳴り響き、馬に乗った人物が地に倒れ込むと、馬は、少々逡巡するようにその辺りをうろついた後、一直線に走り出しフレーム外へと出る。いいセンスだな。『荒野の用心棒』と比べるとやや画が高級になったようには思うが、散漫なシーンも目立つようになった。とはいえ、随所にレオーネのセンスが煌めいており見応えは十分。まあそもそもレオーネはテンポの人ではないんだろう。前作よりイーストウッドは容赦がなくなり人情も薄れた気がする。やはり別の性格の人物なんだろうか。
 冒頭、聖書に隠していた顔を露わにするリー・ヴァン・クリーフのハッとするようなダンディーさ(なので帽子を取ったら頭髪が寂しいことにちょっと驚いた)。主役はイーストウッドなのかもしれないが、正直食われているのではないか。二人の出会いのシーンは本作のクライマックスかもしれない。板挟みになった使用人をうろうろさせ、足元に置かれたカメラが画に変化をつける。何度も何度も帽子を拾わせる挑発も面白いのだが、リー・ヴァン・クリーフが一枚上手だったようだ。相手の拳銃の射程距離を出たことを悠然と確認し、嘲笑うように帽子をお手玉してみせる。
 出会いといえばキンスキーとリー・ヴァン・クリーフの出会いも実に良い。リー・ヴァン・クリーフがキンスキーの襟でマッチを擦ると、キンスキーはすかさずマッチの火を吹き消す。キンスキーが拳銃に手を伸ばそうとすると、仲間が素早くその手を押さえる。良い呼吸だ。キンスキーは大悪党でもいいが、ぷるぷる震える小悪党もいいな。何にせよ悪役だが。出ている時間はそんなに長くないが、良いシーンに割り当てられていてよかった。二人の決着のシーンも見事。胴にこれみよがしにぶら下げた拳銃をフェイクとし、手中に隠した拳銃を放つ戦術の切れ味。
 情報通の爺さん宅が、付近を通った汽車の影響で振動、崩壊するカットなどバスター・キートン作品で見たような画だ。ダイナマイトで脱獄を手助けした後、残照の鈍い赤と地面の間の深い深い闇の中にイーストウッドが消えていくカットが美しい。
 イーストウッドとリー・ヴァン・クリーフが共闘し、追っ手を打ち倒すシーンの見せ方も良かった。一周して鉢合わせた二人が銃を構える瞬間に画面奥を黒猫がサッと横切るセンス。この一手間だ。見つめ合いながら歩む二人が振り返った瞬間にロングショットに切り替わり手下2名を殺害する切れ味。案山子のダミーに注意を惹きつけ、余裕たっぷりの所作で椅子を回転させて敵を始末する。良アイデア。
 (初めての?)殺しの戦利品を後生大事にしており、その時計で死のメロディーを奏でる敵役という設定の残忍さがえげつないのだが、イーストウッドはその試みに介入し、人物を均等に配置して復讐の舞台をセッティングしてやる。引き伸ばされた運命の時間こそが西部劇だ。
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