ひでやん

ゴースト・ドッグのひでやんのレビュー・感想・評価

ゴースト・ドッグ(1999年製作の映画)
3.9
日本の武士道に心酔する殺し屋の物語。

鑑賞者の予想をさりげなく裏切り、静寂の中で刻み続けるズレたテンポがこそばゆかった。心の奥をコチョコチョされながら、ジャームッシュによる緊張と緩和のオリジナルブレンドを味わった。

学園ドラマで例えるなら、主人公が慌てて飛び起きても時間は余裕で、朝食をゆっくり食べ、曲がり角で老人とぶつかり会釈。担任教師は転校生を紹介せず、主人公の転校を告げる。そんな調子っぱずれの滑稽味が本作の味わいとなる。

本作はフォレスト・ウィテカー扮する殺し屋の物語で、マフィアからの仕事を請け負う。その依頼主は過去に命を助けてくれた恩人で、武士道精神から主に従う家来となる。

屋上で日本刀を振り回すが、殺しはサイレント銃。暗殺の後なのに借りる本。アイスクリーム屋で言葉が通じないのに成り立つ会話。ベンチに座る殺し屋と少女。じっと見つめる犬。マフィアが観るアニメ。通信手段は伝書鳩でクルッポー。そんな怖さと可愛さの組み合わせがたまらなかった。

カップルが着ている服を奪い、下着姿になる男女。着ないくせに女の服まで奪う事が可笑しかったが、男にだけ恥をかかせまいとする武士道精神なんだろう。

ド派手なドンパチがクライマックスと思いきや、孤独な男の静かなる皆殺し。期待に対して美しい裏切りだった。そして真昼の決闘で貫く武士道にほろほろり。
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