ひでやん

アルファヴィルのひでやんのレビュー・感想・評価

アルファヴィル(1965年製作の映画)
4.1
再鑑賞。

人口知能アルファ60に支配され、感情や思想を持たない人々が暮らす星雲都市アルファヴィルを描いたゴダール流SF。

車が空を飛ぶ未来都市はなく、撮影したパリ市街にナレーションと音を入れるだけで現実空間を異空間へと変えてしまうゴダールは流石。

挨拶にある一連の流れを簡略化し並べたワード「元気です、ありがとう、どうぞ」に無感情の冷たさを感じる。

不安を掻き立てるような音と不快な声、アルファ60神経中枢による尋問、公開処刑など、管理社会の恐怖が心の奥深くへと流れ込む。

アルファヴィルに暮らす男女の比率は1:50。感情や思想を持てない世界では、男性は適応できず女性社会となる。

ブラウン教授救出の命を受けてそこに潜入するレミー・コーションの物語だが、全体的に見るとSFよりハードボイルドといった感じ。ナターシャに感情や言葉を取り戻させる男の冒険と愛の物語。

ナターシャ役のアンナ・カリーナが真っ直ぐにこちらを見つめる大きな瞳に吸い込まれそうになった。

「150光年前の社会には芸術家というものがいたはずだがアルファヴィルにはまったくいない」という台詞がある。

思想を持てない世界で芸術家が排除されるのは当然だが、ゴダールの文明批判や未来への懸念を感じた。

小説家や音楽家、画家の名前を訊かれると過去の人物を思い出す。勿論現代にも素晴らしい芸術家は大勢いるが、文明の利器に埋もれると創造性が失われていく気がする。

自分が今、長々と駄文を書いているスマホには膨大な情報がある。欲しい情報を引き出すため画面を操作する自分は、スマホを支配している気持ちになるが、依存性のあるスマホに実は生活を支配されているようにも思えた。
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