けんたろう

影武者のけんたろうのレビュー・感想・評価

影武者(1980年製作の映画)
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馬にも女にも乘れぬおはなし。


偉大な人格の蹟と、其處に殘る巨大な喪失感。隅から隅まで迫力に滿ちた燃え盛る戰場の圖。逃れられぬ影の心情を見事に表す不思議な夢描寫。腑の底から威風漂ふ高揚の音樂。
見る者を殺しにかゝる程の壓力で迫りくる其の甚だしきすべてが、只のいち盜人に山たる覺悟を與ふ。人と影との關係は遂に逆轉し、人は影に。

然し、一日にして破滅を爲る其の悲劇。死してなほ生きつゞけし幻影が、乘り移りし靈媒を相具して滅びゆく。偉大な山の、誠の滅絕に一抹の儚さを感ず。


殘されし風林火の「音」や、思はず目を見張る光景が有り乍ら、數々の危險を機轉を利かし或いは利かさつて切り拔くるユーモアも有り。重くて輕き緩急のたいへん面白き作品なり。