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RENT/レントのfonske0114のレビュー・感想・評価

RENT/レント(2005年製作の映画)
4.5
NYを舞台に、家賃を払えない貧しい若者芸術家たちの一面を見せる群像ミュージカル。元々はブロードウェイ・ミュージカル作品ということで舞台もののためか、映画でも舞台転換は少なく人物像がよく描かれている。

私はミュージカルは得意な方ではないが、今作は先の人物像がはっきりとした日常ものであることに加え社会問題も題材として加わっており、多層的で非常に興味深く、色も鮮やかでとてもポジティブでパワフルな素敵な作品で、何より音楽がとても良く、ずっと画面を見つめていた。

『アナと雪の女王』シリーズで主題歌を歌ったイディナ・メンゼルがキャストに加わっている。


以下ネタバレ感想を。

タイトルが『レント(rent=家賃)』ということでどんな話かも予想ができていなかったのだが、「家賃を払えない若者」「家賃を巡る抗議運動」「家賃(お金)のための仕事、生き方」と随所で「家賃」が物語の根底となっていた。

ミュージカルは私はあまり好んで見ないのだが、元々が舞台作品のためか派手な舞台転換や物語の起伏というよりも登場人物の心情や出来事がしっかりと描かれたヒューマンドラマで、加えて各人物たちが前へ進んでいく姿が描かれているのがとても良かった。


「人種のるつぼ」と言われるアメリカを表すような白人、黒人、ヒスパニック、同性愛者、異性愛者と様々な人物が登場するも全員がフラットでとても心地よい距離感でいる。
このような様々な背景を持った人物の作品の場合、要所要所でそのバックグラウンドに苦闘する社会派的側面を持つことが多い。

しかし今作では幼少期の「偏見なく隣のあなたと遊ぶ」頃のように、「ただ気の合う若者たちが同士として集う」姿が全面的に描かれており、加えて音楽にのせることで明るくポジティブに全てを吹き飛ばしているように見える。この作品は持つパワーがすごいのだ。

各々の人物の苦悩も描かれはするが、それは愛や人生観などの普遍的なもので、特定の背景を持ったものがメインではない。「生活」がメインに描かれ、テーマの一つでもあろう「今」を大切にし生きること、は私自身強く共感しているところでもあった。


表層的にはこうした生活や葛藤、人生などの普遍的なテーマが題材として描かれる一方で、所々にある社会的背景が作品の土台をしっかり支えているように思う。

メインキャストが「貧乏な若者」のため貧困もあるが、1989年という時代でエイズが今作でも大きなテーマであることは言うまでもない。

「同性愛者によりエイズが広まる」として強い偏見が持たれた時代の問題提起として社会に訴える作品で、男性だけに限らず女性同士の同性愛者も前面に押し出し、異性愛者と共に生活をする点で見ると今作は非常に意義深いものであると思う(尚、エイズ感染による偏見は社会に根深く、トム・ハンクス主演の『フィラデルフィア』と言うオスカーを獲った映画で描かれている)。


日本で有名なところでは、イギリスロックバンド、クイーンのボーカルのフレディ・マーキュリーが同性愛者で、エイズ感染で1991年に亡くなっている。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも描かれているライブエイドが1985年なので、彼が亡くなる間にあたる今作の舞台1989年〜1990年と思うとより社会的背景が見えてくる(尚、『レント』の作中で「同性愛者が女装している姿を見て驚いた人たち」と言うセリフがあるが、フレディ・マーキュリーもクイーンの楽曲"I want to break free"(1984)のMVで女装した姿が物議を醸した、という逸話を聞いたことがあり、一致すると感じた)。


今作は色鮮やかで、社会的背景を下地にした一方で普遍的な人生や愛、夢を扱ったミュージカルであった。
そして背景など「難しいことはなし」に、ただ純粋に同胞を愛し、今を行きることに突き抜けた愛と純粋さに溢れた作品で、とても力をもらえる、とても良い作品だと思った。

昨今は多様性やポリティカル・コレクトネスなどが叫ばれるが、今作のように「ただ隣人を愛す」ことの大切さと素晴らしさを描く方が心にぐっとくるものがあるように個人的には思う。

職場の同僚の方が好きな作品と聞き気になって見たのだが、とても良いミュージカルだったので、ミュージカルが苦手な私にとってはそのハードルも非常に低くなった。

音楽も私は90年代ブリットポップが好みのため、今作のサウンドや雰囲気もその時代が感じられたように思った。
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