翼

RENT/レントの翼のネタバレレビュー・内容・結末

RENT/レント(2005年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

人生を象徴するような映画は、どんなところが素敵なのか、筆舌に尽くし難い。全てのシーンが、登場人物が、人生の一部のようだから。
「あなたの人生がどのくらい素敵なのか説明して。」と問われて、100文字くらいで説明など出来はしないように、この映画のレビューを前に筆をとると、どこか憂鬱でさえある。


夢を追う若者たちが、才能のあつまる最高峰の町ニューヨークで、貧しくも逞しく生きる幸せを描いた物語。ついでに家賃(RENT)も最高峰。
その傍らにはHIVの蔓延と死が身近にある。いつ終わるともわからない人生だからこそ、友と愛する人々との人生を謳歌しながら、夢を追う。
365日、四季の中で移り変わるニューヨークの情景が彼らの人生の刹那と重なり、美しい。
また、『RENT』のエンディングは何も解決しない。病に倒れたミミに、人生をかけた一曲『your eyes』を贈るロジャー。エンジェルの助けを借りて生還したミミと共に、この刹那的な人生を切り取ったような映像をマークが照射する。ただそれだけ。貧しさや病気や置かれた状況は何も解決しない。だがフィルムに登場する全員が、この一瞬を生き抜く覚悟を決める。ニューヨークで夢を追う若者たちにとっては、それが重要なのだ。


死が二人を分つ直前で完成した『your eyes』は、家賃が払えず停電の中で書き上げたジョナサンラーソンの処女作そのものだし、一度は夢破れて企業に才能を売り込むマークは彼の人生の寄り道とも言うべき身銭稼ぎと重なる。エイズの感染を自覚しながら周囲に勇気を振りまくゲイの同居人はエンジェルとなり、夢を諦める代わりに大金と夢を得るかつての仲間はベニーになった。鬱屈した不満や想いはモーリーンへと姿を変え、over the moonとして公式な反体制デモとして表現されるに至る。そしてソンドハイムが促した「もっと自分に関する物語」は『RENT』を生んだ。惜しむらくは、RENTを愛する人が誰しも惜しむことは、No day but todayでマークがミミがコリンズが、全員が叫んだ「未来でも過去でもなく、今を生きよう」というメッセージを、ジョナサン・ラーソン自身がブロードウェイで聴くはずの前夜にこの世を去ったこと。皮肉にも、このドラマ性によって本作のメッセージは本物と成った。


『thank you.jonathan larson』
『tick.tick.BOOM!』
この二作と合わせて観ることでルーツを知り完結する、ジョナサン・ラーソン彼自身の人生の物語。


余談。劇中曲で最も好きな曲
『I'll cover you』
これを超えるラブソングを私は未だ知らない。あなたがクイーンなら、僕はその城、そして堀。あなたを守り続けることを誓う言葉の数々と、明け方のとにかく冷えるニューヨークの公園。かすかな心の灯に手をかざし二人で暖をとるような、厳しさの中に生きる幸せを描いたような情景。舞台では表現できない、冷たく爽やかなシーンに興したクリス・コロンバスに拍手を。そして、repriseを締めくくる一節を「あなたを守りたかった」と過去形に訳した翻訳家に拍手を贈りたい。
翼