一夢

父の祈りをの一夢のレビュー・感想・評価

父の祈りを(1993年製作の映画)
4.1
出身バンドや文化を知れば知るほど好きになっていき、歴史や政治背景を知れば知るほど嫌いになっていく不思議な国が、イギリスだと思っている。本作は、自分のように「マスターキートン」から多くを学んだ人には是非観てもらいたい、実話を基にした一本。

最近になり、またしてもテロ騒動が盛んに報じられるイギリスだが、テロに暴動に、イギリスが本当に危なかったのは70〜80年代だろう。北アイルランドをアイルランドに還すよう要求する共和軍とイギリス軍の、小競り合いでは済まされない緊張が高まっていた時期だ。

ロンドンでプラプラと生活していた北アイルランド出身の若者が、パブの爆破事件が起きた当日にロンドンに宿をとっていたという理由で逮捕されてしまう。イギリスが新たに可決したテロ防止法の下では、疑わしき者は問答無用で拘束されることが定められており、これが本当に民主国家なのか??と疑問を押さえられなかった。イギリス警察の陰湿で脅迫的な取り調べが進み、主人公やその友人はおろか、家族たちにまで爆破の犯行補助の疑いがかけられ、無期懲役の判決が下されてしまう。

この映画は戦争映画であり、裁判映画であり、青春映画である。共に無実の罪で投獄された冷静で敬虔な父親と、血気盛んな若者の対比は、イギリスからの独立を反対する側と支持する側で、家族内でも立場が割れるというアイルランド問題そのものを暗示しているように思えた。

偶然にも父の日に観たけれど、観たら親孝行したくなるはず。
一夢

一夢