海

ライク・サムワン・イン・ラブの海のレビュー・感想・評価

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あなたが悲しいのか苦しいのかどうしたいのか何がいやなのかいつも分かっていられたらいいのに。自分の愛するひとやものごとを自分と同じように大切に扱ってくれない人間は、世界中のどこにでも居る。わたしの知らないところでわたしの友人はわたしの知らない誰かにいじめられた。わたしのことを好きだと言った人はわたしの猫をかわいいと思えないと言った。そういうのを、当たり前のことだと思って受け流すことができない。仕方ないと思って忘れることができない。いつも耐えられない、自分でも嫌になるくらいに思い出してばかりいる。でもそれと同じくらい、誰かにとってわたしもそういう存在であるということが、嫌だ。わたしが会社の上司に怒られたり電車待ちの酔っ払いに絡まれたり馬鹿とか阿呆とか不細工とかって陰口を言われることに、わたし以上に悲しい気持ちになる誰かが、居るのも嫌だ。それだけはどんなにどうにかしようとしたところでどうにもならないことなんだと自分が一番わかってるからつらいばかりだ。誰もわたしを見ない。ひらがな、漢字、右ハンドル、パチンコ屋、ありふれたどれもがわたしを無視して通り過ぎてく、この国の全部が、わたしのことなんて見ていない。初めて男の人とタクシーに乗った時、運転手は無線で他の車とずっと喋っていた、その日は雨が降っていた、降りるとき彼はわたしに傘を差してくれた、その瞬間わたしがどんなにそこから飛び出したかったか、今タクシーで濡れずに来た道を本当はびしょ濡れになりながら自分の脚で走りたかったと言えなかった、一晩かかってもいいから泳いだ後みたいになってもいいからタクシーになんて乗りたくなかったって言えなかった。言いたかったのに。わたしはあなたが眠った時に眠ったよって知らせてくれるポケベルがほしい。あなたが泣いてるときに悲しいよとか淋しいよとか死にたいよって知らせてくれる空っぽの水槽がほしい。わたしがあなたをおもうように、だれかがわたしをおもっている。わたしのあなたはわたし。あなたの誰かはあなた。ここに居させて、ここに居て、だまって抱いて、わかって、はなさないで、わたしをみつけて。
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