ひでやん

ライク・サムワン・イン・ラブのひでやんのレビュー・感想・評価

3.9
イランの巨匠アッバス・キアロスタミが日本の俳優・スタッフを起用し、東京を舞台に男女3人の人間関係を描く。

80代の元大学教授がデートクラブを通して亡き妻に似た大学生を自宅に招くのだが、かりそめの恋というテーマの中に猜疑と信頼、嘘や誤解などの危うい関係を巧みに描いている。

高梨臨扮するアキコの姿をフレームから外し、嫉妬深い彼氏と電話する声だけを冒頭で入れ、ラストでは彼氏の姿を映さず声と音を響かせる演出が見事。

どこに居ても繋がる携帯電話は、こちらの都合もお構い無しで時間を拘束する。近所のおばさんの長話、タカシの自宅に鳴る電話、彼氏の話、そんな一方的な拘束が全編に渡って溢れていた。

印象的だったのはタクシーの場面。車窓に流れる街並みはキラキラと輝いて見えるが、冷たいコンクリートの中に埋もれた心を映しているようだ。温かな祖母の声に応えない罪悪感を乗せて、車は望まぬ世界へ向かう。

親族に背を向け、初対面と対峙したアキコは、沈黙を埋めるように話題を作るが、絵や写真が自分に似ているという彼女の言葉に自信の無さと寂しさを感じた。

タカシが買ったのは愛欲ではなく、誰かと過ごす時間のように思える。例え他人とでも孤独な心を埋めたかったようだ。

求めるばかりの未熟な心と、与える成熟な心、その狭間で怯える心を閉鎖空間に閉じ込めた場面がたまらない。何をしでかすか分からない加瀬亮の演技は流石。

ビクッとなるラストだったが、この先どうなったのか気になる…。
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