がんちゃん

ショーン・オブ・ザ・デッドのがんちゃんのレビュー・感想・評価

4.5
『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督がダチのサイモン・ペッグと一緒に男子校のノリで作ったゾンビ愛溢れるホラーコメディ。ジョージ・A・ロメロの由緒正しきゾンビ映画についている「○○オブザデッド」のタイトルを盛大にパロッた低予算B級映画。ふざけたタイトルの通り基本はゆる〜いコメディタッチだが、時々ちゃんと怖いから侮れない。

本作が英国で大ヒットした結果、「オブザデッドツケレバミテモラエル…」というゾンビ商法が大流行し、『ダンスオブザデッド』『ゴールオブザデッド』『玉川市役所OF THE DEAD』などのゾンビ亜種を世界中にパンデミックさせることになる。

ゾンビの魅力の1つに「人間との見分けがつかないことによる恐怖」がある。背中越しに声を掛けたらゾンビでした、体調悪そうな人を介抱しようとしたらガーッといかれた、というアレである。
本作はそれを逆手に取り、「むしろ普通の人が全員ゾンビに見える」というブラックジョークを冒頭からかましてくる。朝から精気のない顔で通勤する会社員、麻薬中毒の若者、徘徊するホームレス、バスの座席で死んだように眠る老人。主人公ショーンも家と職場とパブを往復するだけの無計画なアラサー男。そんなリビングデッドたちが集まる陰湿で寂れたロンドン郊外…。
「ゾンビ映画は時代背景を映し出す」という面白さを監督はよく分かっている。事実2008年、親の年金頼みな独身ニート男に一軒家を売りつけるという無謀な「サブプライムローン」が当然のように不良債権化し、大量のゾンビ…失業者が路頭をさまようことになった。本作の公開からわずか4年後の話である。

ショーンが朝起きて近所の売店にビールを買いにいくまでのルーチンをワンカットで撮ったOPが秀逸。翌朝には街中がゾンビで溢れているのだが、あまりにルーチン過ぎて思考停止状態のショーンは街の異変に全く気づかないままいつものように帰宅する!笑
ようやく事態を飲み込んだショーンが取った行動は「よし、パブへ行こう」
バカかよ!笑笑

しかし、家族や仲間に危険が迫るにつれ次第に覚醒するショーン。『28日後…』から大流行した「走るゾンビ」が本作では一切登場しないことに気づき、勇敢な行動でリーダーシップを発揮。そうかこれはダメ男の成長物語だったのか!

…と思いきや、予算の都合で事態はあっけなく終息する。「俺たちそんな都合良く成長できないよね」というボンクラ男の本音が聞こえてくるかのような等身大のエンディングにホッとしたのは自分だけだろうか。
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