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ボディ・アンド・ソウルのzhenli13のレビュー・感想・評価

ボディ・アンド・ソウル(1947年製作の映画)
4.6
「人は皆死ぬ」。主人公の尊厳を回復するために、堕落の過程の代償として二人の味方を失わせる脚本となっている。ロバート・アルドリッチ『カリフォルニア・ドールズ』でドールズとピーター・フォークの本当の味方は誰もいなかったけど、彼らは尊厳を守り、しかもアルドリッチは誰も死なせなかった。

『ロバート・オルドリッチ読本①』(遠山純生著 boid刊)によれば、ロバート・ロッセン『ボディ・アンド・ソウル』は助監督をつとめたアルドリッチにとって教科書的存在であり、『カリフォルニア・ドールズ』のラストにも大きく反映させているという。またドールズだけでなく『飛べ!フェニックス』『北国の帝王』『ロンゲスト・ヤード』『クワイヤ・ボーイズ』と主人公たちが尊厳を守り抜くアルドリッチ作品は枚挙に暇がなく、彼はことあるごとに『ボディ・アンド・ソウル』の精神に立ち返っていたそう。

「人は皆死ぬ」けど、死んで花実は咲かない。散ってしまってはだめなのだ。アルドリッチは遺作の『カリフォルニア・ドールズ』をして、尊厳を失うことなく生き抜くことを強く打ち出すと共に、時を隔てて『ボディ・アンド・ソウル』を補完するかのように誰も死なせなかった。と同時に、その後赤狩りに翻弄されたロバート・ロッセンとエイブラハム・ポロンスキーへの、アルドリッチからの献辞ともなったように思う。映画はそういう優しさを可能にした。蛇足ながらタランティーノが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でシャロン・テートを死なせなかったことも思い出した。

で、本作のラストの対戦シーンに涙が出てきた。
ドキュメンタリータッチで臨場感ある引退試合のシーンでボクサーたちは白いリングの反射光を受けくっきりと浮かび上がる。大勢の観客、婚約者、愛人、相手方のセコンド、胴元たち、そしてジョン・ガーフィールドの視線が素早く切り返される。
ここに至るまでの、脳血栓を患い練習用リングで譫妄とともに倒れたベンの哀れな死が鮮烈で、彼が倒れ俯瞰で映されたリングが誰もいなくなった影だけのリングへとクロスし、冒頭のシーンへつながる。そしてまたラストの引退試合へ戻る。脚本も撮影も見事。

胴元の愛人だったヘイゼル・ブルックスがラストに「また俺のところへ戻るか」と言われて即座にはね退けるのも好い。登場シーンでI'm Nobodyと自己紹介した彼女もまた、自らの尊厳を守ろうとし、その強い視線が素晴らしく、ジョン・ガーフィールド演ずるチャーリーの影の盟友でもあった。
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