Ren

アンソニーのハッピー・モーテルのRenのレビュー・感想・評価

3.0
可愛い。絵本や箱庭のような可愛さではなく、おバカさんがバカなことやってバカみたいに浮かれている可愛さ。弛緩しきったゆるゆるなコメディ。

3バカトリオのグダグダ犯罪、主犯の一人が逃走中に恋に落ちる、更生するがまた犯罪の世界に戻る、などどこを切っても既視感があるが、つまらないかと問われれば決してそんなことは無く、安心して身を委ねられるコメディとして楽しんだ。
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』以降、『ライフ・アクアティック』で完成する箱庭感はまだ一切無く、ロケ全開の初期ウェスだが、前後に動きパンするカメラの感じや色彩センスにはウェス節の片鱗を感じる。

同じく90年代のタランティーノやコーエン兄弟作品のような「目も当てられないグダグダ犯罪」映画だが、前二者に少なからずあるサスペンスフルな緊迫感やかっこよさは微塵も無い。こっちの気が抜けるような体たらくのおバカコメディから一歩も外さずラストまで行く。

終盤の大一番の強盗作戦が白眉。マイケル・ホイのコメディかと思った。疾走感のあるキメのシーンに入る瞬間に呑気なカントリーが流れたりと、とにかくナンセンスに笑かしてくる。なんだか呑気なクライムシーンも、彼の後続作品の片鱗を感じた。

トンチキ邦題にもあるモーテルでの一幕は、中盤の核だけど終盤に大した回収がある訳では無く、そういうむず痒い脚本構成にもまだまだ荒削りな雰囲気を残している。せめてあの犯罪を経た上で、あの想い人との関係をもう一度見せてくれ。アンソニー最大のドラマはそこでしょうが。

自分は近年のウェス・アンダーソンに疲れてきていたのでその反動もあり「結構面白いじゃん!」的な楽しみ方ができたけど、いきなり今作から入るのは普通におすすめしません。素直に『グランド・ブダペスト・ホテル』を観ましょう。
ウェス作品はアカデミー脚本賞で評価された作品が素直にそのまま面白い作品だと思っているので、『グランド・ブダペスト・ホテル』『ムーンライズ・キングダム』『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』で琴線に触れなかったら諦めてください。※個人の意見
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