yuta

ミュンヘンのyutaのレビュー・感想・評価

ミュンヘン(2005年製作の映画)
-
ミュンヘン事件1972年西ドイツミュンヘン五輪にて選手村にアラブ人テロリストが侵入しイスラエル人11人殺害した実話から始まる話。序盤にまずこれをニュースやテレビ、被害加害側の視点織り交ぜながら短く簡潔に事の次第を描く。これだけでも圧巻で何があったかわかるけれど前知識としてパレスチナ問題(アラブとユダヤ、イスラエル側の抗争、その元凶になったパレスチナ分割案によりイスラエル建国されてアラブ難民が生まれた、その前のイギリスらの身勝手な保護国化とかまで遡って単純な2つの対立じゃないと言うこと)を理解しておけばスムーズに入れる。
そしてその後の対応としてテロの首謀者を殺害して行く特命を受けた男達が主人公で描かれる。スピルバーグは社会や政治ドラマが凄く上手い。ペンタゴンペーパーズはそれに当時の男性社会も背景に描いていたが今作のミュンヘンはもろに人種、国家の問題を描いている。パレスチナ問題というものを1人の男を通して描く。ペンタゴンペーパーズもだがスピルバーグが政治ドラマなどを撮るときは現実に即している。この映画も同時多発テロ(攻めたのはイラク、アフガニスタンだが)という中東問題やテロリズム、終わりのない復讐戦争というブッシュ政権がやってきた事と呼応している。

ジュラシックパークとかみてても多分に批判的精神はみられるがこの映画ではそれ中心でエンタメにした感じ。でも真摯に悲劇だとして描いている。この映画の批判された点であるイスラエルもしくはアラブ批判は感じられないし(どちらも苦悩する人間として描かれる)終わりのない復讐戦争によって病んで行く人達を主要人物を通して描いていて極めて真摯だと思える俺は。というのもスピルバーグみたいなメジャーな監督がこのような映画を撮る時良くも悪くも広がる。スピルバーグはそれをわかった上でどの側の人々がダメだとかじゃなくもっと根幹の戦争や殺し合いの無益さ悲惨さ、復讐の終わりのなさ、殺し合っている当事者同士そんなことはしたくもなかったということなどを描出した。そしてそれらは主人公らの苦悩にしっかり投影されている。ここまで丁寧かつ大胆に描いた故に多くの人にこの問題に考える機会を与え今も続く事として深く捉えられる意義ある映画に。そしてその為には飽きずに見れるようにしなければならないのだがこの映画はずっと重い空気が途切れず続き緊張感が保たれる。

2時間半超えをここまで見せるのはストーリーテリング、テンポの良さにある。ちゃんと重厚なサスペンスミステリーとして観れるのだ。印象に残ったのは最後のある2人の決別のシーン。個人のために生きるか国のために生きるかという複雑な問題の際限のなさ、ねじれが痛切に感じられる。
また、祖国がないという苦しみを知らない我々には理解しがたい(学校に来てくれた在日朝鮮人ちゃんへんが朝鮮の話ししてた時もそんな苦しみあったな)寄る辺のなさ。やはり遠い人間こそ考えるべき事であり、その為には無知で興味がなかった我々に簡単に興味を引くように描く文学や映画が必要なのだろう。当事者たちは否が応でもその問題を考えねばならないのだから。ジョンウィリアムズは映画音楽って感じが一番する。主張のレベルとか。
place country
yuta

yuta