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ウンベルトDのyutaのレビュー・感想・評価

ウンベルトD(1952年製作の映画)
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これは白黒のイタリア映画で数十年も前に作られたクラシックな作品なのですが、今の我々にも通ずる普遍的な人間の尊厳などを描いていてとても心に響きました。大筋としては少ない年金暮らしのある老人が家賃を滞納し家主に家を追い出されそうになり、そこから彼はどんどん社会から孤立していくという話です。そんな話から見えてくるのは貧困で老い先短く誰にも見向きされない老人の深い孤独と世間の冷淡さです。物語が進むにつれてどんどん暗く苦しい展開になってくるのですが、それが不思議と変に滑稽でもあり哀しくもあるのです。例えば老人があるシーンで物乞いをしなければならなくなるのですが、自分のプライドや尊厳が邪魔をして愛犬に頼むのです。そこでのお金を入れる帽子を加えて立つ犬の可愛さと哀れさ、おかしさ入り混じる複雑さ。言語化できないあまりにも生々しい人間としか言いようのない深さがそこにはあります。ラストもあくまで映画的じゃない世間の冷たさやどうしようもなさなどの根源的で袋小路な人間の一側面が描かれていて解釈の余地があって考えさせられる映画でした。
また、特筆すべきは老人が飼っている犬の名演です。人間の冷たさや老人の孤独とは裏腹に無邪気にピュアに走りまわる愛犬は老人にとって唯一心を休められるイノセントな存在で、この映画の重々しいトーンの中で一際異彩を放っていましたし、映画自体の大きな魅力だと思いました。はっきり答えを出す映画ではありませんがふとしたときに漠然と思い出してしまう"人間"の映画でした。
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