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幸せなひとりぼっちのtaruponのレビュー・感想・評価

幸せなひとりぼっち(2015年製作の映画)
4.1
妻に先立たれた偏屈な中老年男オーヴェ、隣に引っ越してきた家族がきっかけで、心を開いていく物語。というように映画の説明にもあって、よくあるパターンかなとも思いながら見ていたのだが・・・・、現在のオーヴェが死ぬに死にきれず、不本意ながらも周りとの関わりを持って行く物語もよかったのだが、私の中で沁みたのは過去の回想シーン。この回想シーンの物語がとてもよく、また現在とリンクしていくことで深みが増し、私的にはこの評価になった。
少年だったオーヴェと父との場面(特に電車事故にまつわる2つの場面はたまらない)、そして最愛の妻となるソーニャとの出会いから、孤独なオーヴェが幸せをつかみ、その後不幸が襲おうともソーニャが原動力となって前へ向かっていく過去、これらの描き方がとても良かった。
ソーニャの人柄が素晴らしいし、オーヴェにとってソーニャと出会えたことが彼の人生にとってどれだけの宝であったのか、そして彼の人生がその宝を守り、ともに進むためのものであったことが伝わってくる。
だからこそ、ソーニャを失って現世への意欲執着を失うのも伝わるし、また彼をとどめようとするものもソーニャに関わることだということも腑に落ちる。
彼を孤独から引っ張り出すきっかけとなる隣の奥さんが、イランからの移民だというのも、良いなと思う。そして一見保守的に思えるオーヴェがイランからの移民とかゲイとか社会の異質な要素に対して、第一印象での違和感は持つものの、相手をそのままストレートに受け入れ受容する様子も好感が持てる。
また、サーブとボルボ、アウディなど車をめぐるやり取りなども面白い。

物語の中では、繰り返されるモチーフがある。電車、乗り物の事故、妊娠と出産、白シャツを着た男たち(ある意味、権力の象徴)
声高ではないけれど、大きな力や世の中の圧力に、流されることなく自分の正しいと思える道、今自分にできる精一杯をやりながら生きたオーヴェのささやかな人生がとても愛おしいものに感じられる。
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