こたつむり

26世紀青年のこたつむりのレビュー・感想・評価

26世紀青年(2006年製作の映画)
3.9
盲人の国では片目の者でも王様。

いやぁ。なかなか面白い作品でした。
冒頭から「偏差値が低い人たちは、思慮が足りないから子供をたくさん作る」という展開ですからね。なかなか鋭い着眼点ですよね。まさしく“悪貨は良貨を駆逐する”のです(ちょっと違う)。

しかも、それが積み重なれば。
いつしか“思慮が足りない”人ばかりになる…というのは流石に飛躍し過ぎですが、あながち完全否定できません。飽食の時代に「食べ物の大切さ」を訴えても空回りするように、人間は切迫していない危機に鈍いのです。気を許せば、本作のような未来が来る可能性だって…ゼロではありません。

だから、ある意味。
本作は一種のシミュレーション。
差別的な言動も一部に含まれていたりしますが、決して他人を見下しているわけではなく、数多ある可能性のひとつを検討するために重要な設定なのです。ファ×クとかキン×マとかケ×とか下品な単語が飛び交うのも、必然性に満ちた表現なのです。

だけど、表面だけで捉えれば。
やはり下品で差別的でB級な笑いに満ちた作品です。しかし、笑いとは根源的な部分に差別を内包していますし、それを許容することは“世界が平和である”証左でもあります。言論弾圧は独裁政治の常套手段ですからね。

そして、きちんと内面まで捉えれば。
“思慮が足りない”人たちを一元的に切り捨てていないことに気付くと思います。そう。本作の根底には、愛が流れているのですよ。それは、物語を最後まで観た人ならばご理解いただけるでしょう。彼らは思慮だけではなく“あるもの”も欠落しているのです。

だから、ある意味で26世紀はユートピア。
その世界を一方的に見下す方こそ“思慮が足りない”のかもしれません。何しろ、彼らから欠落した“あるもの”こそが、人が人を傷つける最大の要因ですからね。それが在る世界と、無い世界。どちらが幸せなのでしょうか。

まあ、そんなわけで。
あまりにも思慮が足りない“邦題”のお蔭で評判になった本作ですが、あくまでもそれはカモフラージュ。実際は鋭い切り口で“現代社会”を痛烈に批判した傑作。真理を探究する人にはオススメの作品です。

…なんてのは建前で。
何も考えずに笑えば良いんですよ。
ツーケー丸見え。ウケケケケケ。
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