ナチス占領下のフランスを舞台に、ナチス壊滅を目論む部隊と家族を惨殺された女の復讐劇を描く。
タランティーノが参考にした元ネタ『生きるべきか死ぬべきか』と比較すると、全体の雰囲気は全然違うが、生きるべきか、を下敷きにプレミア大作戦を思いつき、この映画が出来上がった事が分かる。
地下壕で身を潜めながら最後の日々を過ごしたヒトラーを、タランティーノは自由な発想と映画愛によって描き、変えようがない歴史的事実を変えちゃった。
キルビルを彷彿させる復讐劇と、ナチス部隊を叩きのめす特殊部隊を主軸に5章のエピソードで展開される。
酪農家の家にランダ大佐がやって来る場面で、ベートーヴェンの「エリーゼのために」の冒頭部分だけを流す選曲センスは抜群。カメラをゆっくり床下まで下げ、床の隙間の目を映す演出に緊張が走る。
タランティーノは張り詰めた緊張感を作るシチュエーションが実に巧い。
ミミューと名を変えたショシャナとランダ大佐の会話シーン。酪農家の家でミルクを飲んだあの日に、一人生き残った女とは知らず、「彼女にはミルクを」と注文するランダ大佐。偶然の注文だが、探偵並みの人間観察力を感じて怖い。
酒場でドイツ兵とゲームをし、ドイツ語の訛りを突っ込まれるシーンは一触即発。
敵だらけの中に入り込み、一瞬の気のゆるみも許されない状況で『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』のティル・シュヴァイガー演じるヒューゴを目の前にヒコックス中尉が言う。
「いいスコッチがわからん連中は地獄行きだ。私はもうじき天国の扉を叩く」
なんてカッコイイ台詞だ。
イタリア人に成りすました3人がランダ大佐と対峙する場面のブラピのしかめっ面に笑った。
ランダ大佐が靴のサイズを確認する場面など、緊迫したシチュエーションの連続でクライマックスへの階段をじりじりと上り、ドカンと大迫力の見せ場を演出するタランティーノは流石だ。